第23話 第四層『ゴブリンアイランド』
「助かったよ、アイリス」
「困ったときはお互い様でしょ。あんたにはダンジョンで助けてもらったお礼もしたかったしね」
ダンジョンの中を俺はアイリスと共に歩いていた。俺がどうしようかと悩んでいた時に声をかけてくれたのだが彼女であり、好意でパーティーを組むことになったのだ。
ちなみにここまで来るときに経験値の分配を調べたが見事に当分されるようだ。ブリュンヒルデを召喚した時の経験値の扱いがどうなるのか少し気になるが試すわけにはいかないだろう。
『マスター、わかっているとは思いますが、能力の事は……』
「ああ、なるべく使わないようにするよ。でも、万が一バレてもアイリスなら信頼できるから大丈夫だと思う」
『マスターはこの方を信頼してらっしゃるのですね……ならば、私も信じましょう。万が一の時は遠慮なく私の力をお使いくださいね』
先を進むアイリスに聞こえないように俺はブリュンヒルデと会議をする。幸いにも一つ欠点はあるもののアイリスの魔法は強力だ。ブリュンヒルデを使わなくても、俺が前衛として頑張って敵をひきつければ、中層の魔物だって何とかなるだろう。
「アレイスター何をぶつぶつしゃべっているの?」
「ああ、悪いちょっと緊張しちゃってさ……」
「そう……あなたがちゃんと中層に行くのは初めてですものね、私が案内してあげるから安心しなさいな」
そういう風にちょっと先輩ぶるアイリスはどこか上機嫌である。彼女もまた普段はパーティーを組んだりしないからテンションが上がっているのかもしれない。
まあ、そういう俺もこういう状況じゃなければ誰かとパーティーを組むのを楽しめたんだけどな……などと思いながら四層まで到達した。
「あなたもわかっていると思うけど、私の魔法には癖があるでしょう? だから、基本的には私が攻撃をするから、あなたは遠くからサポートして。いいわね?」
「いや、ちゃんと前線で戦うよ。付き合ってもらう上におんぶでだっこじゃかっこ悪いしな。それに俺だって強くなったんだぜ?」
「でも……」
「大丈夫だよ、アイリス。お前の悪癖を知っている上で俺は戦えるって思っているんだ。だから信じてくれ」
「もう……仕方ないわね。そこまでいうなら信じてあげるわ。だから、ちゃんと避けなさいよ」
俺の言葉にアイリスがどこか嬉しそうに笑う。彼女もまたスキルのせいで色々と苦労してたからだろう。俺にもその気持ちはわかるし……今の俺なら彼女のフォローだってできると思ったのだ。
「それで、アレイスター、四層の魔物がどんなのは知ってるわよね?」
「ああ、ここの通称は『ゴブリンアイランド』ゴブリン達がパーティーを組んでいるんだろう。出てくる魔物はゴブリンキャスター、ゴブリンプリースト、そして、もっとも気を付けるのは……」
「ちょうど来たようね。アレイスター。最近調子がいいっていう噂のあなたの腕前を見せてもらうわよ!!」
アイリスの示す方を見つめると、そこには四体のゴブリン系の魔物がいた。ローブを身にまとったゴブリンキャスター、メイスを手にしているゴブリンプリースト、そして、一階に住むゴブリンの二倍くらいの体系の巨大な体躯のゴブリンのような生き物である。図鑑でしか見た事の無いそいつの名前を俺は少し興奮しながら呼んだ。
「あれがゴブリンの進化系ロブリンか!!」
「ロッブー!!」
昔だったら逆立ちをしても叶う相手では無かったが。今は違う。アイリスとの臨時パーティーの連携を試すのににちょうどいい相手だろう。
しかし、ロブリンって名前が適当だよな。もっと下にいったらナブリンやハブリンもいるんだろうか?
「アレイスター、時間を稼いでくれる? それで、合図をしたら……」
「ああ、お前の癖もわかってるさ。でもさ……時間を稼ぐのはいいがー別にアレを倒してしまっても構わないんだろう?」
「言うようになったじゃない。期待してるわよ!!」
俺の軽口になぜかアイリスは嬉しそうに答えた。そんな彼女を背後に俺はロブリンたちに奇襲をかける、さっそく、ロブリンの剣と俺の剣がぶつかり合う。
ガキィンという音と共に俺に押し負けたロブリンが吹っ飛ぶ。かつてとは違い、今の俺なら押し負けないぜ!! 俺は確かに強くなっている!! その事に感動しながらもうとどめを刺そうとした時だった
「ゴブゥ!!」
『マスター!! 気を付けてください。魔法です!!』
「大丈夫だ。読んでいるよ!!」
隙だらけになったロブリンに斬りかかった俺の方に火の矢が飛んできたのを見て、咄嗟に体を半身逸らしてかわすが、そのせいでロブリンの腕を薄く切っただけで終わってしまった。
「ゴブブ!!」
そして、そのロブリンをゴブリンプリーストが癒す。すげえ、まじでパーティーとして連携が取れてやがる。
だけど……今パーティーを組んでいるのはお前らだけじゃないんだよ。にやりと笑って再びロブリンと斬りかかろうとした時だった。
「アレイスター避けて!!」
「うおおおお!?」
巨大な火の玉がこちらに向かってくるのが見えて、慌てて距離を取るとこちらに向かっていたロブリンたちを焼き払う。
すさまじい威力である。いや、すさまじすぎる力である。明らかにオーバーキルであり、下手をすれば俺を巻き込んでいただろう。これが彼女の欠点であり、パーティーを組まない理由なのだ。
「大丈夫だったかしら? その……悪かったわね」
「気にするなよ、お前の癖は知ってるからな。それに中層ではその破壊力が心強いぜ。俺が囮になってお前が倒すちょうどいいじゃないか」
「もう……あんたって昔っから甘いわよね。別に優しくされて嬉しくなんかないんだからね!!」
申し訳なさそうにしているアイリスに気にするなと微笑み返すと、拗ねたように顔をプイっとした。だけど、これが嬉しい時の癖なのを俺は知っている。
こいつはちょっと口は悪くて素直ではないが優しい奴なのだ。
『中々難儀な力ですね……常に限界値までしか魔力を放てないのですね……そのかわり常軌を逸した魔力を持っているようです』
アイリスの魔法を見たブリュンヒルデが呟く。そう、それがアイリスのユニークスキル『暴走魔法』である。威力の制御できないのだが、その分魔力のステータスの上昇が異常らしい。そして、周りを巻き込むのが可能性があるため普段は、パーティーを組まないのである。
そんな自分の信念を曲げてまで俺に力を貸してくれた彼女に感謝する。
「それにしても、アレイスター。無茶苦茶素早くなったわね。どうしたのよ」
「ああ、ちょっとしたアイテムを手に入れてな。だから、遠慮なく魔法を撃ちこんでくれていいぞ。すぐに逃げるからさ」
「そうね、じゃあ、どこまでよけれるか試してみようかしら」
「いや、ちょっとは遠慮してくれると嬉しんだけどな!!」
「うふふ、冗談よ。ありがと」
俺が情けない声をあげると、アイリスはクスリと笑う。先ほどのも、範囲の狭い魔法だったし、俺に気を遣ってくれていたのだろう。
それにしても、疾風のローブで素早さを上げた俺とアイリスの暴走魔法は結構相性がいいな。彼女の範囲外に素早く移動することができる。そして……もっと相性がいいのはブリュンヒルデなんだよな。何かあった時は彼女とアイリスの力を借りることになるだろう。
「それじゃあ、行きましょうか。中層はあの時以外行ったことないのよね? きっと驚くわよ」
「ああ、楽しみだ。前は景色を楽しむ余裕すらなかったからな」
どこか楽し気なアイリスの言葉に俺も興奮しながらうなづく。やはりダンジョンを下っていくというのはなんだかんだ冒険者としての憧れだ。前回のようなイレギュラーとは違い、今回は正式に中層を訪れるのだから……
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ゴブリンってなんでゴブリンって言うんでしょうね?
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