第24話 六層『世界樹』
ゲートをくぐるとそこはまるで異世界のようだった。木々が覆い茂っている森に、蛍の様に何かがチカチカと光ながら飛んでいるその光景はとても幻想的である。
「これが四層『世界樹』か……確か、植物系のドロップアイテムがたくさんあるんだよな」
「ええ、そうよ。あとは景色がいいからダンジョンデートにも使われるらしいわね」
「は、ダンジョンデート……?」
「ええ、Bランクとかの冒険者からしたらここら辺の魔物何て相手じゃないもの。雰囲気の良いここをお互い気になっている男女で散策するらしいわ」
こっちはようやくこれたというのに上級冒険者はいいご身分である。だけど……たしかにここの魔物が敵でないならば、デートにはぴったりだろう。
まあ、今はそれどころじゃないんだけどな。クレア姉さんの命が第一だ。
「それで、薬の材料がどこにあるかは調べてあるの?」
「ああ、もちろん。『エルダーウッドユグドラシル』っていう木が落とす『ユグドラシルの葉』だそうだ。大体の生息地もセイロンさんが教えてくれたよ」
「あー、あいつね。結構強力な魔物じゃないの。まあ、今の私達なら大丈夫でしょうけど……だけど、あんた思った以上に強くなってるわよね。さっきも、ロブリン相手に力で勝ってたし……」
アイリスがジトーとした目でこちらを見つめる。結局彼女には目覚めた『マイナス召喚』の事は伝えていないからな……俺が予想以上に強くなってどうやってダンジョンから戻ったか疑問に思っているのだろう。
「いや、これはだな……」
「まあ、スキル関係なんでしょ。深く聞いたりはしないわ。それに……あんたが信頼できるっていうのは知ってるしね」
「アイリス……ありがとう」
だけど、詳しくは聞いてこない彼女に感謝しつつも笑ってごまして歩きはじめると、何やら木の位置が動いた気がする。
「アイリス……ここって木の位置が変わったりとかするのか?」
「こいつらはトレントね!! 木に擬態して獲物を襲う魔物なのよ」
「くっそ、木を目印にしてたら迷うな……てか、どれがトレントなんだ、全然わからんぞ」
流石は中層ということだろう。こんな風に地形を利用する魔物何てこれまではいなかった。一応しらべてはいたが、見るのと本で読むのではえらい違いである。迂闊に近づけば木の枝で刺されてしまうだろう。
困惑する俺を余所に、アイリスが得意げに笑う。
「そういう時は……こうすればわかるわ。氷の雨よ、我が敵を凍てつかせよ!! アイスレイン!!」
「うおおお、つめてぇぇぇぇ!! やはり暴力だな、暴力は全てを解決する!!」
「戦略的行動って言ってよね!!」
彼女の詠唱と共に杖から無数の氷の塊が雨のように降り注ぎし、木々を貫き、ついでとばかりに暴発した氷が俺を襲う。
あいかわらず難儀な魔法だなぁと思っていると寒さに耐えれなかったのだろう。木に擬態していた魔物の内の何匹かが根っこを足の様動かしてこっちに向かってくる。
「やっぱり、氷じゃだめね……いつもだったら火で遠くから焼き払っちゃうんだけど……」
「それって放火じゃねーかよ。山火事になるぞ……てか、氷が突き刺さったままでもこっちにむかってきてるぞ。結構頑丈だな!!」
「動きは鈍いけど、頑丈なのよね。気をつけなさい!!」
俺は突込みを入れつつも動き出したトレント達を迎え撃つ。幸いにもアイリスの魔法のおかげか動きは鈍っているようだ。
それに、相手が正体を現してくれたら敵ではない。俺は迫りくる鋭くとがった枝をかわしながらトレントに斬りかかる。
「へぇ……やるじゃないかのアレイスター!!」
『当たり前です!! マスターは能力に溺れることなくきちんと鍛錬をしているのですから!!』
「だろ? 中層だって、もう怖くないぜ!!」
感心したようなアイリスと誇らしげなブリュンヒルデの言葉にちょっと嬉しくなる。そして、俺が得意げにトレントに斬りかかった時だった。パキンという乾いた音とと共に『ドドスコ賠償剣』の刀身が折れた。
「アレイスター!!」
「心配するな!! こっちは大丈夫だ」
二つ目の魔法を練っていたアイリスの叫び声がこだまする。くっそ、そこそこの性能をした剣だったが中層の魔物相手には勝てないか……そういえばドワーフの店員が中層ではきついとか言ってたな……いそいでいたがあそこによるべきだったかもしれない。
だけど、策はある。そして、それはブリュンヒルデの召喚ではない。
「召喚(サモン)!!」
召喚物を武器に限定!! 俺の脳内に召喚候補が浮かび上がる。
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アレイスターLV21
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エクスカリパー消費LV1
さびたけん 消費LV4
名もなき魔剣 消費LV15
フラガラッハ 消費LV30
エクスカリバー消費LV80
???
???
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先ほどのロブリン達との戦いでまたレベルがあがっている。そして、現段階で召喚できるのはこれか……伝説の聖剣エクスカリバーを召喚するにはまだまだ先の様だ。英雄譚に出てくるような名剣も気になるが、今はそんなものを気にしている場合ではない。
そして、俺が選ぶのはこれだ!!
世界が漆黒に包まれると、一枚のカードがその存在を主張するように俺の視界で回転する。そのカードに描かれているのは刀身の輝く剣である。
名もなき魔剣
かつて英雄たちと共に『魔帝』と戦った騎士が身に着けていた物。彼の存在は歴史のかなたに消えたが、その輝きは未だに朽ちてはいない。切れ味の増加する魔法がかけられている名もなき魔剣。
俺の手元のカードが神々しい輝きを放つ魔剣と化してときが動き出す。
「くらいやがれぇぇぇぇ!!」
俺はアイリスの死角で魔剣を召喚しつつさっそくトレントに斬りかかると、まるで紙でも斬るようにあっさりと真っ二つに切れ断末魔を上げる。アイリスの表情が心配から驚愕に変わるもそのまま魔法を詠唱し、風の刃が遠くのトレント達を切り裂いた。
「ふぅ、楽勝だな!!」
「あんたね、そんな剣持っているなら最初っから使いなさいよ、心配したじゃないの!!」
「ああ、悪い悪い……いうだろ? 奥の手は最後までとっておくものだってさ」
ぷりぷりと不満そうに頬をふくらませてこっちにやってくるアイリスに俺は軽口を返す。確かに最初っから魔剣を召喚してれば無駄な心配をさせないで済んだんだよな。世界樹の葉が取れなかった時用にとレベルが下がるのを気にしてケチった罰だろう。
そして、アイリスの目線が魔剣でとまり目が見開かれる。
「ちょっと、その剣はどうしたのよ。すごい魔力を秘めているわよ!! そんなの中層の冒険者だって持ってないわよ!!」
「ああ、これは先祖代々伝わる魔剣でな……」
「あんたは孤児って言ってたじゃないの!! もう、本当に良くわからない男ね……どうせ、詳しくはいえないんでしょう」
俺の言葉にアイリスが大きくため息をつく。せっかく付き合ってくれたのにいつまでもスキルの事を秘密にしていていいのだろうか?
それに、アイリスならば信用できるのではないか……そして、彼女にいうべきか悩んでいる時だった。
「別にいいわ。アレイスターはアレイスターですもの。誰にでも言えないことはあるものね。でも……いつかは教えなさいよね」
「ああ、ありがとう」
そう言って微笑む彼女にお礼を言う。冒険者は訳アリの人間が多い。深く詮索はしないのが暗黙のルールである。だけど、彼女が俺を信頼してくれているのが嬉しい。もっと……俺が誰かに利用されないくらい強くなった、真っ先に彼女に言おう。そういう風に心の中で誓う。
「じゃあ、行きましょう。『エルダーウッドユグドラシル』がいる場所までもう少しよ」
そうして、俺達はトレントからドロップアイテムをゲットして目的地へと向かう。しかし、舌を噛みそうな名前だな!!
★★
正直ネーミングセンスはない気がしてきましたw
明日から1日1話更新になります。
よろしくお願いします。書き溜めがつきた……
面白いなって思ったらフォローや、★をくださると嬉しいです
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