第25話 予想外の遭遇

「すげえ、でけえな……」

「私もこんな近くで見るのは初めてね……確かにダンジョンデートをするっていうのもわかるわ……」



 俺達の目の前には巨大な樹が天に伸びていた。木々の間には幻想的な光がぽつぽつと輝いている。確かにこんなところで夜景をバックに気になる異性と歩いたらいい雰囲気になるかもしれない。

 もちろん、魔物がいなければの話だが……


 大樹に近寄ろうとすると、その周りの木々が動き出す。その中にひと際葉が輝いている魔物がいた。どうやらあれが『エルダーウッドユグドラシル』のようだ。目的にくる獲物を狩るために待ち伏せをしていたのだろうか?


「もうひと踏ん張りやるわよ、アレイスター!! トレントなんかよりもはるかに強力な魔物だからきをつけなさい!!」

「ああ、任せろ。俺の魔剣の力をみせてやるぜ!!」



 『エルダーウッドユグドラシル』はトレントが長い年月生きてより強力になった魔物である。ただ歩くだけではなく、魔法も使ってくるとセイロンさんのメモにもあった。

 だけど、今の俺とアイリスならば負ける気はしないぜ!!



「待たれよ、人間!!」



 戦闘態勢に入った俺達に声がかけられる。その方向は……『エルダーウッドユグドラシル』のはるか上の枝からだと? 

 木の枝の上に一人の人影があった。いや、あれは人ではない。だって……人には翼何て生えていないはずなのだから……



「君達人間に、ちょうど聞きたい事があるのだよ」



 そう言って木々の葉が舞っている中、俺達の目の前に飛び降りてきたのは蝙蝠の様な翼を持った人型の生き物である。

 その表情はどこか温厚そうで無害に見える。だけど、背中の翼と頭から生えている角がどこか不吉な予感を漂わせていた。



「こいつ……悪魔なの?」



 アイリスの言葉に俺は思わず絶句する。ああ、やっぱりかよ……でも、何でこんなところにいるんだ? 何かの間違いだろ、だって、悪魔はダンジョンの深層にしかいないはずなのだから……

 無情にも俺の願いを否定したのは目の前の異形の存在だった。



「まずは自己紹介をさせていただこう、我は悪魔族の騎士セーレである。よろしく頼む」



 そう言ってどこか気品のある仕草で礼をする姿は、まるでどこぞの貴族と言われてもおかしくないほどだった。

 だが、彼から感じる圧力というべきか、本能が訴えている。



 こいつは危険だと……今まで出会った度の魔物よりも強力だと……



 横にいるアイリスも顔を真っ青にしてふるわせている。それは幼い頃から悪魔や魔王は危険だとおとぎ話を通じて教育されていた結果かもしれない。



『きゅーきゅー』



 蝙蝠が逃げろとばかりに囁いてくる。ああ、そういえばブラドに警告されていたな。悪魔が俺を探しているって……



 そんな中突然の乱入者にも構わずこちらにむかってきているエルダーウッドユグドラシルたちが彼の間合いに入った瞬間だった。



「ふむ……礼儀がなっていない魔物だな」



 彼が剣を立ったひと振りするだけで、あっさりとトレント達とエルダーウッドユグドラシルは切り刻まれて息絶えた。無惨にも葉をまき散らして死んでいったそいつらを見てびくっとしたアイリスの手を安心させるように握りしめる。


「アレイスター……?」

「大丈夫だ、俺に考えがある」



 俺にはまだこいつに見せていない切り札がある。もちろん、ブリュンヒルデだ。確かに目の前の悪魔は強い。『エルダーウッドユグドラシル』はこの階層の中でも強いモンスターだ。ロブリンなんかとは比べ物にならないだろう。それを一閃だったのだ。目の前の悪魔はそれだけつよいいうことだ。だけど、悪魔の最低消費レベルは戦乙女であるブリュンヒルデよりも低かったし、あいつの一撃は俺の目でも追えた。

 ならば、ブリュンヒルデでも勝機はあると思ったのだ。



「ふむ、戦う意思を捨てない。良い目ですな。ご安心頂きたい。私は何も君達人間に害をなそうというわけではないのです」



 そう言うと穏やかにどこか気品がある笑みを浮かべて剣を鞘にしまった。その様子に俺とアイリスは思わず顔を見合わせる。

 悪魔は狡猾で恐ろしい魔物と聞いていたが案外話が通じるのだろうか? そんな事を思っていると脳内で、声が響く。



『キューキュー!!』

『マスター気を付けてください。悪魔は人の負の感情を好物としています。おそらく油断されるためのブラフかと……いざという時は私を召喚してください』



 二人の警告に感謝をしながら何気ない風を装ってセーレに問う。もちろん、アイリスにハンドサインで気をつけろというのも忘れていない。



「聞きたい事というのはなんでしょうか?」

「はい……あなたたち人間の中で、不思議なものを召喚できるものをご存じないですかな? もしくはここ最近でいきなり強くなった冒険者がいないでしょうか……?」

「え……?」



 想定外の言葉に俺は思わず聞き返し、一瞬アイリスの視線が俺を見つめる。すると悪魔はそれまでの温厚そうな表情を、捨てて、いやらしくニヤァァァァと笑った。



「ビンゴォォォォ!! 一発でつれたぜぇぇぇ!!」

「ブリュンヒルデ!!」



 先ほどとは全然違う口調に驚きながらも俺は咄嗟にブリュンヒルデを召喚する。もう、スキルがばれるとかどーのとかを言っている場合ではない。

 そして、戦いがはじまってしまった。


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ついに悪魔とあったアレイスターたち。どうなるのでしょうか?



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