第35話 アイリスの試練

 翌日、やたらと気合の入ったアイリスと共に、俺はデュナミスさんが止まっている宿へと向かった。どうやら機嫌は治ったようだが、どこか張りつめているようだが、大丈夫だろうか?

 そして、俺は所々に大理石をあしらった高級そうな宿の前にたどり着いた。



「こんなところに泊っているのか……やっぱりすげえな……」

「そう? 家族旅行の時とかここよりももっと良いところに泊まっていたわよ」



 この街で一番豪華な宿であり、俺の泊まっている宿の10倍くらいする金額に少しビビっていると、キョトンとした顔をしながらアイリスがあっさりと扉を開けた。

 そこはまるで貴族の屋敷のようにソファーや、高そうな石像などが飾られているラウンジである。



「おお、アイリス。待っていたよ」

「パパ!! もう、そんな大声で呼ばないでよ。恥ずかしいでしょ」



 デュナミスさんが大きく手をふって呼ぶと少し恥ずかしそうにしているアイリスと共に、彼の元へと向かう。

 手で座るように促されたので、ソファーに腰を下ろすと予想以上の柔らかさに驚く。



「ここは相変わらず活気のある街だね。何人もの若者が夢を見て、そして冒険者になっていく。恥ずかしながら私も昔を思い出したよ。君達は何層まで言ったのかな?」

「俺達は今六層『魔法使いの里』を攻略している最中です。敵全員が魔法使いというのが厄介で少し苦戦してます……いつ攻撃が飛んでくるかわかったもんじゃないですからね」

「はは、懐かしいねぇ。あそこは多種多様な魔法が飛んでくるからねぇ。八つ当たりとばかりに私も魔法はずるいってよく仲間の戦士に愚痴られたよ」



 俺が冗談っぽく愚痴ると、デュナミスさんは昔を懐かしむように笑って、アイリスに話しかける。




「アイリスはどうだい? 中層になると敵も一気に強くなるだろう? 苦戦しているんじゃないかな?」

「……大丈夫よ!! 私の魔法はあそこの魔法使い達にも引けをとらないもの」



 一瞬迷いながらも彼女はそう答える。その様子を笑顔を浮かべながら見つめているデュナミスさんが何を考えているか、俺にはわからなかった。



「パパ……私は冒険者としてちゃんとやっているわ。確かに魔法の制御はできないけど、それならそれでやり方もあるの。だから……私の力を信じてくれないかしら」

「アイリス……私のじゃないだろ、俺達の力だ。というわけでデュナミスさん、アイリスは冒険者として活躍しています。とはいっても口だけではあれですので、俺達に何か依頼をしてもらえないでしょうか? 見事クリアしてみせますよ」

「ほう……そう来たか」



 俺の言葉にデュナミスさんは目を見開いて、俺とアイリスを交互に見つめると、何かを噛み締めるように頷いた。



「わかった。君達はちょうど六層にいるんだろう? だったら六層の奥にある『エンデュミオンの館』でドロップする本がある。それを取ってきてくれ」

「エンデュミオンの館……?」



 聞きなれない言葉に眉をひそめるとアイリスが説明してくれる。



「魔法使いではないアレイスターが知らないのも無理はないわね。『エンデュミオンの館』は魔法の基礎を確立したという魔導王エンデュミオンが、弟子たちの特訓のためにダンジョン内に造った施設よ。いわく、そこにはすべての魔法使いにとっての登竜門とまで呼ばれているの。わかったわ。パパ、『エンデュミオンの館』をクリアしてみせるわ」



 魔法使いにとっての登竜門か……何を待っているか、わからないが心が躍る。そして、アイリスの言葉にデュナミスさんが楽しそうに微笑んだ。



「ふふ、心強い言葉だね。かつて私も仲間と挑んだものだよ。それとアイリスにプレゼントがある。良かったら受け取ってくれないかな?」

「これは……」

「何かの杖……かしら?」



 そう言ってデュナミスさんが取り出したのは古びた杖である。明らかな魔力を持っているのはわかるが、その効果まではわからない。



「制御の杖……もしも困ったらつかいたまえ。私がオゴラーレ男爵に頼んで借り受けたものだよ」

「な……」



 その言葉にアイリスが眉をひそめる。だって、それはつまり、魔力を制御できないアイリスでは今回の依頼はクリアできないといわれているようで……



「わかった。使わないでしょうけど借りておくわ。その代わり使わなかったらわかるように封印をしておいてくれるかしら」

「ああ、お安い御用だよ」



 そうして、アイリスは複雑な顔をして杖を受け取って、デュナミスさんと別れて宿を後にする。



 そして、帰り道で俺は彼女に問う。



「それを借りちゃっていいのかよ、アイリス?」

「いいわ……別に使わなければいいんですもの。私の力を見せてやるわ。パパにも……あんたにもね」



 そういって、どこか好戦的な笑みをうかべるのだった。


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