第30話 告白
孤児院で久々の平穏を過ごした俺は翌日ギルドの個室を貸し切って待ち人を待っていた。
「なあ、ブリュンヒルデ、昨日の悪魔は俺を魔帝と呼んでいた。お前らは何のことなのか知っているんじゃないか?」
『申し訳ありません、マスター。私の口からはそれはいえないのです……それが召喚されしものの契約なんです。マスターの在り方を歪めるような事は伝えることができないのです……』
脳内で申し訳なさそうなブリュンヒルデの声が響く。ブリュンヒルデも『ベアトリクス』と何か関係がありそうだが、教えてくれないし色々と条件があるようだな。
そして、これから話すことをまとめおわるとちょうどノックの音が響く。
「アレイスター入るわよ」
「ああ、来てくれてありがとう。アイリス」
彼女は少し緊張した様子で俺の顔を見つめると何か察したかのように笑顔を浮かべる。
「その様子だと、シスターは助かったようね。よかった……」
「ああ、アイリスのおかげだよ。パーティーを組んでくれてありがとう」
どうやら彼女も気にしていてくれたようだ。気遣いに感謝しながら本題に入ると事にするが、アイリスは手で制止してきた。
「あんたのユニークスキルがすごいってことはもう察しがついているわ。最近になっていきなり強くなったことと関係していることもね……だけど、安心して。私は絶対このことを言うつもりはないわ。それに……ずっと頑張っていたあんたがあこがれていた英雄に近づくのを見ているのは気持ちいいもの」
絶対気になっているであろうにアイリスはそんなことを言ってくれる。そして、彼女と付き合いの長い俺にはわかる。こいつは本当に誰にも言わないだろう。
『マスター、どうしますか? スキルに関して説明をしなくても大丈夫みたいですが……』
ああ、そうだな。でも、違うんだよ。俺は彼女の誠意は誠意で返したいんだ。脳内でブリュンヒルデの言葉にそう返し、俺は意を決して口を開く。
「ありがとう。アイリス……だけど、お前が俺を信用してくれているように俺もお前を信用しているんだ。だから、秘密を話そうと思う。聞いてくれるか? そして、聞いたうえで一つお願いがあるんだ」
「……わかったわ。きいてあげるわ」
俺は意を決してアイリスにスキルが覚醒したときのことや、効果を話す。ステータスアップやレベルを消費して、様々な召喚をできることをだ。
信じられないとばかりに表情で聞いているアイリス。
「なによ、そのスキル……すごすぎじゃないの……想像をはるかに超えていたわ」
「ああ、でも、欠点はあるよ。強力なものはレベルを上げないと召喚できないし、アイテムを除いて同時に召喚できるのは二人だからな」
「それが戦乙女とあのコウモリなのね……」
四層でのブリュンヒルデたちを思い出したのだろう、アイリスが納得したとばかりにうなづく。そして、何かを思い出したかのようにつぶやく。
「そういえば、似たようなスキルをもっている人が、かつての勇者パーティーにもいたって聞いたことがあるわね」
「え? 俺は英雄譚とか結構読んでいるがそんなの聞いたことないぞ」
「ええ、でしょうね。理由はわからないけど、その人は勇者パーティーから突如姿を消したのよ。だからか英雄譚からは抹消されているの。歴史の専門書には載ってるんだけどね……」
魔帝の次は勇者パーティーか……俺だって馬鹿じゃない。このスキルがすさまじい可能性を秘めているという事はもう薄々勘付いている。
そして、俺はこの力をどう使うかも決めたのだ。
「なあ、アイリス……よかったら俺と正式にパーティーを組まないか? 今回悪魔と戦って、俺とブリュンヒルデだけじゃ勝てなかった。アイリスの力が必要なんだ。それに……お前と冒険してさ、すごい楽しかったんだよ。ああ、冒険者になったんだなって実感したんだよ」
「ふーん……そうなの。でも、あんたは他の人にパーティーを誘われた時は断ったって聞いたけど」
「ああ、それはそいつらを信用してなかったからだよ。俺が弱い時にはバカにしてたやつもいた。俺の力を見て、声をかけてくれたやつらもいた。だけど……そいつらには俺のスキルの秘密を話せるほど信用はできなかった。だけど……いつもなんだかんだ俺の相手をしてくれて、今回だって見返りもないのに助けてくれたアイリスなら信頼できると思ったんだ。お前は俺にとって特別なんだよ」
そう……損得無しに俺とパーティーを組もうと誘ってくれた人間は二人いた。一人は幼馴染のフリーレンだ。結局彼女の力と俺の力の差がありすぎたので組むことは叶わなかった。
そして、もう一人は彼女だ。ずっとソロでいたのに俺を助けるために、自分の信念を曲げてまで組んでくれた。そんな彼女ならば信頼できると思ったのだ。
「ふぅん、私は『特別』なんだ……」
そう、呟くアイリスはどこか嬉しそうににやにやとしている。そして、すっと真面目な表情で訊ねる。
「ありがとう。でも、いいの……? 私は魔法の威力を制御できないから、前線にいるあんたを巻き込むかもしれないし、上級魔法を使うと限界まで魔力を使うからその後は使い物にならないわよ」
もちろん、知っている。冒険者になりたての時に魔法で仲間を巻き込んでしまい、それ以来ソロを貫いていたことも……悔しくて、ずっと制御しようと特訓をしていたことも知っている。
だから、俺は彼女を安心させるように微笑んだ。
「知ってるよ。でも、アイリスもパーティーを組んで思ったろ。俺ならアイリスの癖を知ったうえで行動できるってさ……」
「あんたが私の癖を知ってるくらいわかってるわよ。冒険者になりたての時に魔力が制御できないって半べそかいてた私に、一層での特訓に延々と付き合ってくれたのはあんたじゃないの……」
「それはまあ、ギルドの仕事だったからな……」
万年チュートリアルという事もあり、初心者冒険者達の指導をやっていたので、彼女に付き合っていたのだ。かなり昔の事だが覚えてくれていたことが素直に嬉しい。
だけど、ちょっと恥ずかしくて、憎まれ口を叩いてしまう。
「それに、今後は俺のスキルで魔力を制御できるアイテムも召喚できるかもしれないだろ。そうすればアイリスはもっと強くなれる。それで……どうだ?」
ダメ押しとばかりに俺がそう言うと、彼女はふっと笑顔を浮かべた。
「仕方ないわね、そこまで言われたら断れないじゃないの。パーティーを組んであげるわ。その代わり条件があるわ」
「一体なんだ? さすがに背を高くする薬とかないと思うが……」
「だれも、そんな事言ってないでしょ!! もし、あんたが、魔力を制御できるアイテムを召喚できることになったとしても、パーティーで活動するのに必要な物を優先しなさい。組む以上貸し借りは作りたくないの。わかった?」
「ああ!! もちろんだよ」
絶対に俺と対等でいようとする彼女に笑顔で答える。今回の件で俺は彼女に大きな貸しがあると思うのだが、アイリスの中ではそうではないらしい。
そして、そんな彼女だからこそ俺達はパーティーを組んでうまくいくと思うのだ。
「じゃあ、せっかくだし、パーティー登録するしたら結成記念に宴会でもするか」
「いいわね。なんというか……パーティーでさわぐって憧れていたのよね」
「俺もだよ。今日はごちそうを食べよう」
ウキウキのアイリスに同意する。彼女と飯を食べたりはしていたが、それは友人としてだ。やはり冒険者たるものパーティーメンバーとの食事というのは憧れがあったのだ。
悪魔の件、スキルの件、色々と引っかかる事もある。だけど……俺はアイリスやブリュンヒルデ、ついでにブラドと一緒なら何とかなると思ったのだった。
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これで一区切りになります。
やばい……フリーレンさんの出番がマジでない……
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