第46話 デュナミス

 アレイスターたちが『エンデュミオンの館』にもぐったのを確認したダークフレイムはダンジョンを後にし、この格好で久しぶりに街を歩くのを楽しんでいた。

 冒険者でにぎわうここは人の出入りも激しい。色々な店が現れては消えていくのだ。彼の馴染みの店もだいぶ減っているに寂しさを感じながらも、かつてパーティーを結成した時に祝った思い出の店に足を踏み入れる。

 路地の中の店だからだろうか、相変わらずあまり流行っていない感じが懐かしく少し嬉しくなった時だった。



「うう……なんで、あいつは私をクエストに誘ってくれないのよ……中層に行ってるなら一回くらい私を呼んでくれてもいいじゃない……ちゃんと、目の前をうろうろとしているのに……」

「だから、直接声をかけなさいって言ったでしょう。あなたは仮にも『黄昏の行方』の一員なのよ。そんな気軽にパーティーに誘えるはずないでしょう……」

「だって、ライバルとか言っちゃったから、パーティーを組んでみない? とか言いにくいのよ……」



 酔っぱらって弱音を吐いている水色の髪の美少女を、魔法使いの恰好をした女性が慰めている。男にでもフラれたのだろうか?

 青春だなぁと思いながら、ダークフレイムは店主に声をかける。



「いつものを一杯……って覚えているかな?」

「ふっ、懐かしいな。俺は一度でもここ来た客の事は忘れないんだよ。『常闇の魔法使い』さんよ。これでも食っとけ。好きだったろ?」



 店主がニヤリと笑って、魚を燻製したものを差し出した。懐かしい呼び名と、変わらぬ味に思わずダークフレイムはこみあげてみるものを感じる。

 変わるものがあれば変わらない物もあるのだな……

 そう思っていると、視線を感じたので振り返った。やはりこのかっこよすぎる服装は他人の視線を釘付けにしてしまうようだ。罪な男である。 



「その変わった格好。もしや、デュナミス師匠ですか……!?」

「な……マーリン……?」

「この変な恰好の人は知り合いなの? 姉さん」



 そこにいたのは先ほどの少女を慰めていた魔法使いの女性だった。後ろ姿だったので気づかなかったが、まさか知り合いだったとは……都に戻り宮廷魔法使いとして働いている時に、とある縁があって、受け持った弟子だったのである。

 幼い彼女には冒険者時代の話をすると喜ぶので色々と話したので覚えていたのだろう。



「私が王都でお世話になった時に魔法を教えてくださった先生よ。私に魔法の楽しさを教えてくれた恩師なの」

「はは、そんなに大したものでは無いさ。デュナミス=クレインだ。君は……マーリンの妹であるフリーレンさんでいいかな?」



 正体がばれてしまっては仕方ない。仮面を外して挨拶をする。



「はい、デュナミスさんの噂はかねがね聞いています。その……とんだ失態を晒してしまい申し訳ありません……」



 先ほどまでの様子がどこにいったやら、フリーレンは酔っぱらって愚痴っている事を恥ずかしがっているのか、顔を赤くして、姿勢を正す。そんな彼女を微笑ましく思うと同時に、少ししほっとしている自分がいた。



「君達の噂は王都でも届いているよ。深層で戦う冒険者パーティー『黄昏の行方』の噂はね。二人とも人生を楽しんでいて何よりだ」

「ありがとうございます。それも師匠の教えのおかげですよ」

「その……先ほどの失態は忘れてください……お恥ずかしい……」



 顔を真っ赤にして、手で覆う彼女を見て、思う。よかった……プレッシャーに押しつぶされているだけではないようだ。恋愛などで悩む余裕があるのならば問題はないと思う。

 だって、彼女達はかの英雄『ベアトリクス』の血筋を引く人間なのだ。ダンジョンを踏破する。その期待も自分の時とは比べ物にならないだろう。だから、彼女たちがこうして人間らしい悩みを抱えていて安心するのだ。



「ふふ、君達には期待しているよ。そして、何もできない私を許してほしい」

「そんな……師匠が魔法を鍛えてくれて、深層の恐ろしさを教えてくださったから今の私たちがあるんです」



 そう言って謙遜するマーリンを見て、彼は思う。デュナミスは知っている。深層の危険さを、悪魔の狡猾さを……なぜならば彼もまた、『エンデュミオンの館』で悪魔の恐怖を知り、それでも戦おうとして、深層に足を踏み入れて心を折られて、冒険者を止めたのだから……

 そんな中結果を出している弟子の成長を喜びながら思う。彼女たちの役に立てているならば教えた甲斐があったというものだ。



 アイリスとアレイスター君はどっちにいくかな? 私のように心折れるか、それとも彼女達のように先に進もうとするのか……



 彼はすでに決めていた。『エンデュミオンの館』の試練を乗り越え、悪魔の恐ろしさを知り、なお、冒険者を続けるというのならば、アイリスを全力で応援しようと……


 そして、自らの弟子が強くなっているのを喜んでいる自分を見て、エンデュミオンもこういう瞬間が好きであんな館をつくったのかななどと思うのだった。

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