第27話 霊水
マイナス召喚のランクが上がっただって? スキルが強化されることはダンジョンの深層に入る以外にも条件があったようだ。本来は歯が立たないはずの悪魔を倒したことによって、ランクがあがったのだろうか?
色々と検証をしたいがそれよりも前にやることがある。そう、『ユグドラシルの葉』を探す事だ。
「ブリュンヒルデ、護衛を頼む」
「わかりました。マスター。先ほどの作戦素敵でした」
「ああ、それもブリュンヒルデが信じてくれたおかげだよ。よいしょっと」
俺はブリュンヒルデの言葉に少し照れながら、気を失ったアイリスを背負いって『エルダーウッドユグドラシル』達の住処を睨む。無事だといいのだが……
「それで……マスターはこの方にどう説明するのでしょうか? 私の力を使えば絶対に他言させないことも可能ですが?」
「……アイリスは信頼できる。俺から事情を話すよ」
「わかりました。マスターの判断に任せますね」
俺の返答にブリュンヒルデはなぜか嬉しそうに頷いた。てか、彼女にそんな能力があったのか? 脳筋なイメージだったけど……まさか物理で説得とかじゃないよな?
「マスター、何か失礼な事を考えていませんか?」
「え、いや……」
「ううん……」
「大丈夫か……?」
ジトーっと見つめてくる彼女に笑ってごまかして、背中でうめき声を上げるアイリスがおちないようにちゃんと支える。
彼女の目の前でブリュンヒルデを召喚したのだ。俺のスキルについて説明しないわけにはいかないだろう。それに……あの悪魔は俺を『魔帝』の残滓と呼んでいた。これから俺はこのスキルについて色々と調べなければいけないだろう。だが、まずは『ユグドラシルの葉』の方が大事だ。
そして、俺達は世界樹の奥へと進むとそこには信じられない光景が待っていた。
「『エルダーウッドユグドラシル』が皆殺しにされているだと……」
「これは……ひどいですね……」
先ほどのセーレが暇つぶしにでも狩ったのだろうか? そこには木の形をした魔物達の死体しかなかった。そして……死体の葉はすでにかれており、生気は無い。
「ブリュンヒルデ!! 蝙蝠!! まだ生きている『エルダーウッドユグドラシル』を探してくれ!!」
「わかりました。マスター!!」
「きゅーきゅー」
いつの間にか魔剣から出てきた蝙蝠と、ブリュンヒルデが一時間ほど周囲を探索しただろうか? 結果は芳しくはなかった。ダンジョンの生態系がどうなっているかはわからないが、魔物はどんどん湧いてくるのだが、『エルダーウッドユグドラシル』がいつ復活するかまではわからない。
「マスター、薬を召喚することはできないのでしょうか? 先ほど悪魔を倒しましたしレベルが上がっているのでは?」
「それが……まだレベルが足りないんだ。俺のレベルは今33で、万能薬には45レベル必要なんだよ……」
「私達三人で経験値を割ったせいですね……」
ブリュンヒルデが悔しそうに言った。彼女の言う通りセーレを倒したおかげか一気にレベルは上がった。だけど、それでも万能薬には程遠い。こうなったら、ひたすらトレントなどの中層に魔物を狩りつづけて、レベルをあげるしかないのか?
「私の神聖魔法でも、復活はしないようです……もっと強力な力があればあるいは……」
ブリュンヒルデが何とか無事な葉は無いかとしなびている「ユグドラシルの葉」を見つめそんな事を言うのを耳にして俺は一つの推論が頭に浮かぶ。
「なあ、霊水を使えば行けるんじゃないか?」
「なるほど……さすがはマスターです!! 霊水なら必要なレベルも30ですし、召喚できますね」
そして、俺は急いで召喚をしようとして一瞬迷う。これで、だめだったらどうしよう。それならばダメもとでも45まで上げたほうが……
「自分の直感を信じたまえよマスター。霊水は生命力の塊でできた水だ。きっと君の望む結果が待っているはずさ」
「ああ、そうだな……」
蝙蝠からブラドの声が聞こえてくる。わざわざ助言をしてくれたらしい彼の言葉に頷いて、俺は霊水を召喚する。このままではどうせ間に合わないのだ。だったら少しでも可能性があるほうにけるべきだろう。
世界が漆黒に包まれると、一枚のカードがその存在を主張するように俺の視界で回転する。そのカードに描かれているのは液体の入った瓶である。
霊水
かつては死者すらも蘇らせると言われた不思議な効能のある水。その生命力は枯れ果てた大地にすら再度恵みを与える。
俺の手元のカードが神々しい輝きを放ちそこには液体の入った瓶がのこった。その液体はきらきらと輝いており、瓶越しでもただの水でないというのがわかる。
「垂らしてみるぞ」
「はい、マスター」
生唾を飲んだのは俺かブリュンヒルデのどちらだったか……霊水を枯れはてた葉に一滴垂らすとぱーっと輝いて、まるで『エルダーウッドユグドラシル』に生えていた時のようにキラキラと輝きを取り戻す。
「これならいけるぞ!!」
「やりましたね、マスター!!」
俺は急いで輝いている葉をアイテムボックスにいれて……念のために他の枯れた葉と霊水も入れようとして一つの事に気づく。
そうだ、生命力が回復するならば……俺はアイリスを横に寝かせて、その形のいい唇にも霊水を一滴垂らす。口にうまくはいってくれたのか荒かった呼吸も徐々に落ち着いていき、魔力を使い果たし疲労の色が濃かった顔もつやつやとしてきた。
「ううん……あれ? アレイスター? 私は一体……なんか体が無茶苦茶軽いんだけど……」
「ああ、すべての魔力を使って倒れていたんだよ。その調子ならば大丈夫そうだな。やっぱり霊水はすごいな」
「は? 霊水ですって!?」
俺の言葉に彼女が飛び起きて、霊水の入った瓶を凝視する。
「本物じゃない……魔力のたくさんある泉でしかとれない貴重な水なのに……どうやって……」
「やっぱりすごいものなのか?」
「そりゃあね……まあ、魔法使いでないあんたが知らないのも無理はないわ。多分ダンジョンの中層か深層でしか取れないうえに、とっても高価なの。この瓶一本で一年は暮らせるわよ。私だって実家でお父様に貴重なものなんだって見せてもらったくらいですもの……」
アイリスの実家は確か宮廷魔術師なので珍しいものはたくさんあるはずなのだが……俺が思ったよりも相当貴重なものだったらしい。レべルを30を犠牲にしたかいがあるというものだ。
「これもあんたのスキルなのね……」
「ああ。それで……」
「もちろん、誰にも言わないわよ。それにあんたが力に目覚めた後もパーティーを組みたがらない理由もわかったわ。こんなものを召喚できるって知られたら変な奴に利用されるに決まっているもの。それよりも早く行きましょう。シスターが大変なんでしょう」
「ああ、ありがとう。すべてが終わったら必ず説明する」
今は言及しないでいてくれているアイリスに感謝して俺はアイテムボックスに霊水をしまう。そして、アイテムボックスを見た彼女が再び信じられないという顔をしていたので笑ってごまかす。
そして、アイリスの驚いた顔を見たからか、この『マイナス召喚』のやばさを再認する。そして、先ほどの『魔帝』という言葉が引っかかった。だって、そいつはかつて魔王たちを支配して、人々を絶望の渦に巻き込んだ英雄のとは対極ともいえる存在なのだから……
「なあ、ブラド……」
「きゅーきゅー」
俺が問いかけようとしたが既に彼の意志は蝙蝠になく、可愛らしい泣き声がかえってくるだけだった。今はまだはなしてはくれないということなのだろう。こいつはうさんくさい。だけど、霊水の時といい、俺を助けようとしてくれていたのはわかる。
「心配しないでも大丈夫だよ、君を魔帝なんかには絶対させないさ。そのために僕はいるのだから……」
蝙蝠がぼそりとそんなことをつぶやいたのが聞こえた気がする。今は色々ときになるがいつか答えてくれるだろう。そう思いながら俺はダンジョンをあとにするのだった。
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