28
鬼木は叔父と叔母の家に戻るなり気を失ったようだった。
どうやって家に帰ったのか覚えていなかった。
ただ鬼木が家を出てから三日ほど経っていたようで、病院で目を覚ました鬼木は叔父と叔母にこっぴどく叱られていた。
しばらくしてギャーギャーとうるさく耳障りな声がやっと静かになると鬼木は二人にたずねた。
どうして何も教えてくれなかったのですか、と。
二人は顔を見合わせ慌てて無理矢理笑顔を作りながら言った。
「ほら、まだあなたは中学生だったし、言ったところでどうしようも出来ないでしょ?」
「もうお前はうちの子なんだ。早く忘れろ」
叔父と叔母のその言葉を聞いて鬼木は心の底から大人が嫌になっていた。
あまりにも勝手すぎやしないか。
いくら中学生だったとはいえ実の母親と兄弟たちが死んだことも教えてくれないなんて酷すぎやしないか。
あの母親だってそうだ。
まず自分勝手な行動で父親を裏切りひとりの人間をあんな風に傷付け堕落させた。
自分がまいた種なのに、全部母親が悪いのに、子どもたちを守ろうともせず勝手に命を奪った。
生活が苦しかったにせよ何か方法はあったはずだ。
それなのに何もしないで人のせいにして、自分だけならまだしも幼い子どもたちを巻き込むなんて。
もうこれ以上大人に振り回されるのは嫌だ。
鬼木の心は自分勝手な大人に対する怒りでいっぱいになっていた。
そんな鬼木に後ろめたさを感じたのか叔父と叔母は鬼木を大学に行かせてくれた。
鬼木がすんなりと医学部に入学したことで叔父と叔母の鬼木に対する態度がガラリと変わった。
将来鬼木に医者になってもらって自分たちは楽をして生きようという考えが見え見えだった。
どこまで汚ない大人たちなのか。
うんざりする中でも鬼木にとってただ大学だけは楽しかった。
ただそれだけは叔父と叔母に感謝していた。
自分と同じように優秀で勉強熱心な仲間たちといることだけが鬼木の心が休まる唯一の時間だった。
そして仲間ができ仲間と出掛けたり会話していく中で鬼木は今の世の中に徐々に不満を抱くようになっていった。
肝心な部分はことごとく抜けている法律。
あまりにも開きすぎる貧富の差。
どうしようもなくくだらないことで争う大人。
世の中のことを知れば知るほどやはり鬼木の中では大人という生き物が諸悪の根源だと思えてならなかった。
今の大人たちだけではない。
その前から、そのまたずっと前から、きっと何かをどこかで間違ったのであろう。
そしてこのままだと自分たちの未来も同じように荒んだ道を歩んでしまう。
そうならないために自分に何が出来るだろうか。
鬼木は毎日そのことばかりを考えていたのだった。
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