政府官邸内



「総理、やはり暴動が起こって各地は混乱しています。それにコピー人間は増え続け、本国は人で溢れています」


 本宮総理にそれだけ言うと秘書は何事もなかったかのような顔で執務室を出ていった。


 秘書がドアを閉めたのを目だけを動かして確認すると本宮総理はすぐに胸ポケットからスマートフォンを取り出した。


「ああ、もしもし私です。ええ、すでに第二段階に入っているようですね。はい……いよいよ第三段階ですか。わかりました。ええ、では明日にでも」


 本宮総理は通話を終えると椅子に深く腰かけ背もたれに体を預けた。


 そして表情ひとつ変えないまま内線電話のボタンを押した。


「今から言う四人を至急集めてくれ」


 そう言うと本宮総理は大臣らの名前を四人あげた。



 次の日、官邸の会議室に集まったのは本宮総理と近藤修こんどうおさむ法務大臣、安西靖二あんざいやすじ厚生労働大臣、行森吉高ゆきもりよしたか文部科学大臣、それに国家公安委員会の長谷部昭二はせべしょうじ委員長、そしてH・Bサイエンス社の鬼木社長という六人だった。


「こういう時にコピー人間は本当に役に立ちますな」


「ええ。本当にそう思います。誰にも怪しまれずにこうやって密会できる。コピーが仕事していればいいのですからね」


「まったく大した物をお作りになられましたな、鬼木社長は」


 鬼木は大臣らの言葉に喜ぶ様子もなく目の前に置かれたお茶をひとくち飲んだだけだった。


 それを見ていた本宮総理は咳払いをしてから話し始めた。


「さて、昨日少しばかりお話ししましたが、いよいよ我々は新世界への第三段階に突入します」


「いよいよですな」


「うむ」


「今現段階ではコピー側と低能人側とが二つに別れ混乱し暴動が起き負傷者も出ている状況であります。そして予定より早くコピー人間は増え人口はかなりの数となりました。そこで全低能人一斉テストを行います。もちろんそれは単なる見せかけですがね。表向きはテストをクリアすればコピーを作ることが出来る、というもの。しかし本当の目的はそうではない」


「恐ろしい」


「実に」


「この一斉テストで四十五歳以上の低能人は残念ながらこの世から消えていただきます。二十歳から四十五歳までの低能人は面接をし、生き残れるか否か振り分けを行います。ここまでで何かご意見やご質問は」


 本宮総理は鬼木以外の四人の大臣らの顔を一人ずつ見て目を合わせていった。


 四人はただ黙って首を横に振るだけだった。


「この面接がいかに重要か。これで未来が決まると言っても過言ではありません。我々が未来を創る。そう思って慎重にお願いいたしますよ皆さん」


 四人は何度も頷いていた。


「さて鬼木社長。ニュータウンの準備はどんな状況でしょうか」


「ああ、こちらは全て順調ですよ。何も心配はいりません。皆さんはご自分の役割りをしっかり行ってください」


「わかりました。では皆さん、お忙しい中本日はありがとうございました。この第三段階が終われば残すところはもう最終段階です。それまで悔いのないように、精一杯一日一日を大切に、楽しく過ごしてください。では解散します」


「お疲れ様」


「お疲れ様でした」


 本宮総理が言い終わると大臣らはゆっくりと立ち上がり帰り支度を始めた。


「本宮くん」


 そんな中、鬼木が本宮総理に近付いた。


「鬼木さん、どうされました?」


「いや、君には本当に感謝していると伝えたくてね」


「はは、私の方こそですよ」


「そう言ってもらえると安心だよ。しかし、第二段階に進むのは意外に早かったね。一年もかからなかった」


「そうですか? 今の社会の風潮を考えるとこんなものだと思いますよ。すぐに流行に飛び付きみんなの真似をする。自分の意志は弱い。出来ないことをすぐ他人のせいにする。ああ、今こうやって口にしているだけで私は気分が悪いですよ。まったく……」


「君が私と同じ志を持っていて本当によかった」


 鬼木は微笑みながら本宮総理に手を差し出し握手を求めた。


「より良い未来のためです。なんと言っても私はこの国の総理大臣ですからね」


 本宮総理は差し出された手を力強く握り返した。





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