隔離

17



 低能人による暴動が激しくなってきている頃、リナは一人で信田の自宅に遊びに来ていた。


「わざわざありがとうね瀬山さん。やっぱり外に出るのはちょっと怖くて」


 信田の自宅は一軒家だったため、住む所を奪われず普通の生活ができていた。


「素敵なお宅ですね。うらやましいな」


「あは、若い頃に無理して買っておいてよかったって思ってるわ。まさかこんな事態になるなんてね」


「本当に、そうですよね」


「それで? いったい何があったの?」


 急にリナから会いたいと連絡を受けた信田はきっと何かあったのだろうとリナを心配していた。


 リナはこれまであった純とのことやコピー人間についてのことを信田に話した。


 予想ができてはいた話だが、信田は真剣にリナの話を聞いていた。


「でも瀬山さんの気持ちもわかるわ。いくら同じだからってコピー人間とそういうことはちょっとねえ。同じ立場だったら私もきっとそうなると思うもの」


「はい。それで純くんになんだか悪くて。コピー人間のことを知りもしないで一方的に拒否してしまった自分が嫌になったっていうのもあります」


「まあ、無知は罪だというけれど。そんな時に院長先生からお話しがきたのね」


「そうなんです。もちろん診療所のためですけど、ちょうどいい機会だと思って」


「それでどうなの? コピー人間を作ってみて何か変わった?」


 リナはそう聞かれてしばらく考えていた。


「それが……作った側としては普通なんです。いたって普通。本当にただ自分がもうひとり増えたって感じで。そりゃあ慣れるまではなんだか不思議でしたけど、そんなのすぐに自然になって、まるでそれが当たり前かのようで」


「へえ、やっぱりそうなのね」


「やっぱり?」


「いやね、私の息子もコピー人間を作ったんだけど、聞いたら別にって感じでそっけなかったのよ。そういう感覚なのね」


「息子さん、確か料理人でしたっけ」


「そうそう。やっぱり手に職を持っていると必要とされるのね」


「そうですね。あ、知ってます? コピー人間のおかげで今は食料や物資が豊かになってるそうですね」


「ああ、何かの記事で見たわ。生産も開発も向上して国は潤っているみたいね」


「その一方でコピーを作らなかったら低能人なんて呼ばれるって……」


「まあ、確かにそう呼ばれるのは気分が悪いけどね。何かを手に入れれば何かを失う。仕方ないことかもしれないわね」


 その時、家の玄関の方から音がしたと思うと男が一人、ひょこっとリナたちがいるリビングに顔を出した。


「ただいま」


「あら明宏! びっくりしたぁ」


「ちょっと通りかかったから。お客さん? いらっしゃい」


 明宏はリナを見て頭を下げた。


 リナは慌てて立ち上がった。


「お邪魔しております」


「瀬山さん、さっき話してた息子の明宏よ。明宏、こちら瀬山さん」


「ああ、お袋のサンドイッチが好きな瀬山さん?」


「えっ!」


「あは、そうそう。よく覚えてたわね」


「お袋が嬉しそうに何回も話すからじゃん」


「そうだったかしら? それで、あんたが顔を出すなんて珍しいじゃない」


「うん。ちょっと心配でさ。お袋が外に出て暴動に巻き込まれないようにと思っていろいろ買ってきたから。しばらく外には出ない方がいいぞ」


「あら、ありがとう」


「じゃあ俺は荷物を運んだら行くから。お袋またな。瀬山さんごゆっくり」


 明宏はそう言ってリナに軽く会釈するとリビングをあとにした。


「優しい息子さんですね。素敵です」


「えっ? たまたまよ」


 信田はまんざらでもない表情でリナに笑いかけた。





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