18



「そうそう、瀬山さんのためにサンドイッチ作らなくちゃね。ちょっと待ってて」


「わあっ、やった! ありがとうございます」


 信田はキッチンへ向かい冷蔵庫を開けて準備にとりかかった。


「瀬山さんはゆっくりしてて」


「はい」


 そう言われたものの、リナはカウンター越しに信田の様子を観察していた。


「そんなに見たって特別な物は何もないわよ。パンにバターをぬってハムとキュウリをのせるだけ。あとはマヨネーズを適当にね」


「はい」


 そういえば純も自分が作るサンドイッチが好きだった。


 純はどうしているだろうか。


 相変わらず忙しく働いているのだろうか。


 リナはふとそんなことを考えていた。


「今、診療所は暇なんです。ご存知の通り高齢者の方々がどんどんいなくなってしまって」


「ああ……」


「代わりにと言っていいのかコピー人間が治療に来ることもありましたけど、何故か皆さんすぐに元気になられて。通院することはないですね」


「そうなの? コピー人間って丈夫なのかしらね」


「どうなのでしょうね」


「あ、そうだ! 思い出したわ。これも誰かが言ってたんだけど、コピー人間やコピー人間を作った人たちって、この一年近くで誰も亡くなってないんですって。誰も、一人もよ! なんだか妙じゃない?」


「え、一人も、ですか?」


「そうなのよ。なんだか怪しいわよね。あ、いいことなんでしょうけどね。なんだかね」


「そうですね。高齢の方もコピーした人はいるでしょうし確か病気もコピーするとか言ってましたしね。死なない……ってやっぱりおかしいですよね」


「ね、何かあるとしか思えないわよね。瀬山さん体調とか何も変わりはないの?」


「はい。特に何も変わった気はしないですし体調もいつも通りです。仕事も楽になったので前みたいにストレスも感じてません」


「ストレス……それかしら」


「でも他の人たちはきっと忙しくしているのではないでしょうかね。私がたまたまなだけで」


「ねえ、瀬山さんのコピー人間とは仲良くしてるの?」


「はい、考えることが同じなので話していて楽しいです。最近は時間に余裕が出来てきたのでたくさん話してます」


「へえ、そうなの。瀬山さんのコピーさんもこのサンドイッチ好きかしら。食べ物の好みも同じなの?」


「はい、もちろんです」


「じゃあコピーさんの分も作らなくちゃね」


「いいんですか! ありがとうございます。きっと喜びます!」


「ふふふ。嬉しいわ」


「やったぁ」


 それからリナと信田はサンドイッチを食べながら思い出話や今の状況についての話しをして長い時間を過ごした。


 日も暮れ始め、リナがそろそろ失礼しますと言って信田の家から帰る時だった。


「そういえば、信田さんにもあの緊急メールって届いているんですよね」


「あら、瀬山さん知ってたの」


「はい。患者さんたちが騒いでいたので」


「あは、そうだったわね。あそこは意外に情報が得られるものね」


「はい」


「もちろんきたわよ。なんだか変よね。強制だとかさ。低能人を人間と思ってないみたい」


 そう言って笑った信田の顔は少し陰りを見せていた。


「信田さん……」


「大丈夫よ。きっと何も心配することないわよ」


「じゃあまた遊びに来てもいいですか」


「もちろんじゃない。今度はコピーさんも連れてらっしゃいな。会ってみたいわ」


「ありがとうございます」


「じゃあ、またね瀬山さん」


「はい。信田さんもお元気で」


 信田の家を出て歩き出したリナ。


 この時リナは何故かもう二度と信田とは会えないのではないかという気がしていた。


 何故かはわからないがとても悲しいという感情が溢れ出し、自然と目には涙がたまっていた。





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