15
「わ、なんだあれ」
しばらく車を走らせ、目的のスーパーまでもうすぐという時だった。
直央はスピードを緩めながら窓の外を見ていた。
「マジか」
後ろに座っていた浅間も身を乗り出して外を見た。
ドラッグストアや大型スーパー、飲食店が同じ敷地内にあり広い駐車場にはたくさんの車が停まっていた。
スーパーの入り口付近に物が散乱しており人々が逃げるように走っていた。
よく見ると顔にタオルやスカーフを巻いて目だけを出した若者が大勢でスーパーを荒らしているようだった。
バットのような物で窓ガラスを割ったり停まっている車のボンネットを叩いたりと暴れている者もいた。
「暴動か」
浅間は少し興奮した様子だった。
「こんなの映画か海外ドラマの中だけだと思ってたけど、実際にやる奴がいたんっすね」
「まあ、やらざるを得ないっていうのが本当なんだろうな」
浅間の呟きに菊田が答えた。
「俺たちのバラックは高齢者ばっかりでこんな暴動起こすことはないですけど、他のバラックは何をしでかすかわかりませんもんね」
直央は心配そうにその光景を見ていた。
「俺がデモをやってた時からヤバいとは思ってたんですよ。いつか絶対暴動が起こるだろうなって」
「こんな世の中にした国が悪いんだ。俺たちだって限界ってもんがあるんだよ! やれやれ!」
浅間は少し笑いながらそう言った。
「なんだい、もしかして浅間くんも暴れたい?」
そんな浅間に菊田が聞いた。
「ああ、いや、見てて気持ちよさそうだなとは思ったんですけど、自分はいいっす」
「そっか。ほっとしたよ。浅間くんは格闘技かなんかやってたんだっけ?」
「ああ、もう五年くらい前ですけどね。けっこう真剣にやってたんですけど、解体屋でバイト始めたら人を殴るより建物壊す方が楽しくなっちゃって。はは」
「はは、それは面白いね。で? コピーの話しは? 浅間くんも誘われたんじゃないのかい?」
「ああ、はい。速攻断りましたよ。そんな気持ち悪いもんいらねえって。俺は自分のことだけで精一杯っす。こんなデカい大男は二人もいらないっすよね」
「はは、役に立ちそうだけどね」
「今はバラックの爺さん婆さんをおぶったりお世話するのが楽しいっすよ」
「浅間くんも若いのに偉いよ」
「そうっすかね。自分おばあちゃんっ子だったんで、なんか今すげえ楽しいっすよ」
「そっか。それはよかった」
そんな浅間と菊田の会話を聴きながら直央はほっとしていた。
みんながみんな暴動を起こしたいわけではない。
だがこんな風に暴れる人間がいたら、やっぱり低能人だ、と言われても仕方なくなってしまう。
自分たちも同じ目で見られてしまう。
浅間と菊田がそうでないことは嬉しかったが、直央は違う不安を抱いていた。
このままあちこちで暴動が起き出せば、政府の低能人に対する扱いはさらに酷いものになるだろう。
あの総理大臣なら何を言い出してもおかしくない。
そんな心配をしながら直央は暴動を横目にスピードをあげた。
「今日はみんなでバーベキューでもやりましょうか」
「おっ、いいっすね」
「うん。いいね。よし、僕がお肉代奮発するよ」
「マジですか。やった」
「ご馳走様っす」
三人とも、今この時のこの時間を少しでも楽しんでおくべきだということを心のどこかで感じていた。
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