20
次の日の午後、浅間と菊田が乗った車がバラックの前に停まるのを見た直央は急いで二人のもとへ走り出した。
「お帰りなさい。どうでした?」
直央は落ち着かない様子だった。
二人は車から降りながらお互いに目を合わせていた。
「ちょっと中で話そうか」
三人はテントの中に入りいつもの席に座った。
「まず、みんなはやっぱりバスに乗せられていたよ。窓は黒塗りでおそらく本人たちはどこへ向かっているのかわからない状況だろうね。そして連れて行かれたのはホテルだった。あの高台にある広大な敷地にあるホテル」
「ホテル……ですか」
「うん。結論から言うと、侵入は無理だな」
「そんな、どうして」
「ホテルだったけど、いつの間に造り変えられたのかホテルの周辺には高い塀が建てられていたよ」
「まるで刑務所みたいっすよ。誰も入れない、誰も出れない、みたいな」
「本当にそうなんだ。侵入はおろか近寄ることすら出来ないだろうね。警備の数も多かったしきっと監視カメラがあちこちで見張っているだろうから」
「じゃあ三郎さんたちもそこに?」
「たぶんね」
「ちょっと異様な雰囲気っすよ。完全に隔離されてるみたいで」
「なんとか中の様子を探る方法は?」
「ないだろうね。僕たちの力ではどうしようも出来ないよ。やっぱりおとなしく順番を待って呼び出されるのを待つしかないだろうね」
「……くそっ」
直央は悔しそうに握りしめた拳に力を入れていた。
「気持ちはわかるけど諦めるしかないっすよ」
「うん。ただ隔離されてるってだけでホテルでのんびり暮らしているのかもしれない。もっといい方に考えようよ。いくらなんでも、まさか拷問されたり怖い目に合っていることはないだろうし。ね?」
「はい……わかりました」
直央は明らかに落ち込んでいた。
そしてますます直央の中の胸騒ぎは大きくなっていた。
なぜ高齢者を隔離する必要があるのか、隔離したところで国は何をしようとしているのか。
本当に三郎たちは無事なのだろうか。
そんな不安を抱いたままで刻々と時間だけが過ぎて行った。
十日ほど経った頃にはバラックの人数は数える程度になってしまっていた。
「帰ってこないのは高齢者だけじゃなかったね」
閑散としたテントを眺めながら菊田が言った。
「はい。高齢者から始まって……今は何歳くらいの人が呼び出されていますっけ?」
「んー、確か四十五歳くらいまできてるんじゃないかな。きっともうすぐ僕の番だね」
いつも冷静な菊田もそう言って笑う顔には少し不安が浮かんでいた。
「もしも電波が入ったらこっそり連絡入れるよ。たぶん、どうせ無理だとは思うけどね」
「そう、ですね」
「菊田さん……」
「あはは、二人ともそんな顔しないでよ。きっと向こうでまた会えるさ」
「でも菊田さんがいなくなったら俺不安っす」
「俺もです。なんだかんだ言って菊田さんのことばかり頼りにしてましたから」
「そんなことないよ。嬉しいけど僕だって君たちがいてくれてよかったよ。二人に出会えてよかった。僕ひとりだったらどうなっていたか。もうここには高齢者もいないし、あとは残りの時間を楽しんでおくといいよ。不思議なことに、暴動もピタリと止んだしね」
「そう、ですね」
「暴動もないし、人が減った感じっすよね」
「うん。確かに街で見るのはコピー人間たちが多い気がする。まあそれもそうだよね。コピーを作ってない人間が隔離されたんだから」
「……まさか、それが政府の目的?」
「えっ? えっと、世の中をコピー人間たちだけにするってこと?」
菊田がそう言うと三人はお互いに顔を見合わせていた。
「でも、何のために?」
首をひねる三人の間には不穏な空気が流れていた。
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