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 最初の高齢者が政府に呼び出されてから約三週間。


 それと平行してさらに政府は不可解な行動をとっていた。


 コピー人間を作ることが出来ない二十歳までの全ての人間をある場所へと集め始めていたのだ。


 それは各地方にあるH・Bサイエンス社が買い占めている広大な土地だった。


 親が呼び出されるとその子どもたちは政府が面倒を見るからとそこへ移動させられていた。


 親元から離れている学生などの十代の者らも暴動などに巻き込まれぬようにと同じように強制的に移動させられたのだ。


 そもそも暴動が起きるようになってから子どもたちを街中で見かけることがなくなっていたために、直央たちがその事に気付いたのはかなり遅かった。


 四十五歳以上の低能人の姿が消えた頃、直央と浅間と菊田が三人で銭湯に行った時だった。


 三人でサウナに入っているとコピー人間を作ったであろう男たちの会話が自然と耳に入ってきた。


「……うちの息子たちはもう随分前からあそこに行ってるよ」


「ああ、あそこ、ネイチャーランドか?」


「そう、それ。とにかく子どもたちに暴動やらのニュースを見せたくなかったしな」


「まあ、教育上よくはなさそうだしな。でも子どもたちと離れて寂しくないのか?」


「そりゃ寂しいよ。でも毎日ビデオ通話できてるし、あいつら本当にあそこで楽しそうなんだよな」


「へえ。そのネイチャーランドが?」


「うん。凄い所なんだぜ。ひとつの街みたいでさ。ちゃんと教育も受けてるし食事もしっかり栄養管理されてるんだ。かと言ってきちきちしてなくて遊ぶ時間も多いらしい。それが無料だっていうからまた凄いよな」


「なんだよそれ。なんか夢みたいな話しだな」


「本当だよ。とにかく全ての子どもたちが各地のネイチャーランドに集められてるらしいぞ」


「低能人らの子どももか?」


「もちろん。子どもには何の罪もないからな」


「ああ、そうだよな……」


 その会話を聞いた時に直央たち三人は顔を見合わせていた。


 そして銭湯を出て車に乗り込むとすぐに直央が言った。


「どういうことなんでしょうね」


「理由はわからないけど聞いたまんまだと思うよ。子どもたちはそのネイチャーランドって所に集められている」


「そう言われれば最近子どもの姿を見てないっすね」


「俺もさっきの会話を聞いてハッとしました。子どもたちがいないって」


「うん。僕も同じさ。バラックの人たちのことばかり気にしてたからね。子どものことは本当に盲点だったよ」


「でも自分、これには政府に賛成っすよ。いいことをしてると思いました」


「俺も、なんか悔しいけど」


「はは、僕もちょっと政府をみなおしたよ」


 ずっと不安ばかりだった三人も、この時ばかりは政府のことを少しだけみなおしたのだった。


 そして四十歳である菊田が呼び出されるのももう時間の問題だろうと思っていた三人。


 ところがそれからぱったりと政府からの緊急メールは途絶えていた。





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