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「まあいいじゃん。俺たちは二人に会いたいの。ここは自由なんだろう?」


 直央は笑いながら言った。


「本当に大人は自分勝手だ」


「自由をはき違えてない?」


 そう言いながらも歩と進はどこか嬉しそうにしているように見えた。


「リナちゃんたちは子どもは?」


 陽子がリナに聞いた。


「私たちはまだ」


「もうちょっとこの世界を楽しもうかって二人で相談して」


「そう。それもいいわね」


「二人はまだ若いからね。僕たちは早く子どもがほしくて。いや、僕だけか」


「あら、私だってほしいと思ってたわよ。菊田さんとの子どもを」


「本当かい? はは、そりゃ嬉しいな」


「はいはい。あとは家に帰ってからやってくださいね」


「あはは」


「はは」


 直央の言葉にみんなが笑っていた。


「さあ、歩、進。食べたらサッカーやるぞ」


「はあ?」


「サッカー?」


「ボール買ってきた。サッカーやったことないだろ?」


「ないけど」


「別にいいよ」


「運動も大事だぞ。特に子どもはな」


 そう言うと直央は歩と進の腕を掴んで引っ張った。


「ちょっとぉ」


「僕たちはいいよぉ」


「とにかく付き合え。ほら立って」


「もう……」


「本当に……」


 二人は直央に無理矢理立たせられていた。


 それでもやっぱりどこか嬉しそうにしている二人は直央を追いかけるようにして走り出していた。


 それを見ていたリナの目に、二人の腕にはめられたブレスレットの光が飛び込んできた。


 ラブラドライトの石が太陽の光を浴びてキラリと輝いたのだ。


 ラブラドレッセンスな世界……。


 リナはこの新しくて自由で美しい世界がとても気に入っていた。


 確かに辛いことも悲しいことも苦しいこともあった。


 でも時がすぎ、世界が変わり、物事を違った角度で見ることができた。


 角度を変えれば見えるものが変わる。


 リナは思った。


 今いる子どもたちや歩や進、そしてこれから生まれてくる子どもたちのためにもこの輝く世界を守っていきたい。


 どんな未来になったとしてもそれは自分の責任だ。


 だから責任を持って未来を作る。


 未来を作るのは他の誰でもなく自分たちなのだ。


 より良い未来を。


 リナはそう思いながら、もうだいぶ遠くまで走って行ってしまった三人を眺めていた。


 直央と歩と進の笑い声が遠くの方から聴こえてきていた。


 それはリナの心を幸せにしてくれるとても美しい笑い声だった。




          完





          二〇二三年一月二十八日 クロノヒョウ





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ラブラドレッセンスな世界 クロノヒョウ @kurono-hyo

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