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 医師免許を取得すると鬼木は国外を転々とした。


 単純に他の国がどうなっているのかを知りたかった。


 世界は鬼木が想像していたより酷かった。


 発展途上国のあまりの貧しさに驚愕した。


 先進国でありながら戦争をする国に絶望した。


 また世界中の環境が汚染されているという事実を知った。


 もともと明るくて人当たりのよかった鬼木は医師として働きながら各国に自分と同じような思想を持つ仲間を増やしていった。


 三十歳を過ぎ自国に戻った鬼木はとりあえずの土台としてH・Bサイエンス社という会社を起ち上げた。


 表向きは製薬会社でありながら鬼木は世界各地の仲間たちとこの世の中をどうやってより良くするかを日々考えていた。


 今いる子どもたちのため、いや、それには間に合わなくてもその子どもたちのため、そのまた子どもたちのためへという想いを馳せながら。


 それと併用して鬼木が興味をひかれていったのがコンピューター技術とクローン技術だった。


 日々すさまじい勢いで進化していくコンピューターやIT、AIなどに無限の可能性を見いだしていた。


 そして自分の父親と母親のようになりたくなかった鬼木は家庭を持ちたいと思ったことはなかったが、自分と同じ遺伝子を持つ子どもには興味がわいた。


 自分がもうひとりいてくれたら今までどんなに気が楽だったろうか。


 どんなに心強かっただろうか。


 それから鬼木の頭の中では少しずつ、ほんの少しずつ、理想的な未来の世界への妄想が始まったのだった。





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