亀裂

12



 大型連休が終わる頃にはようやくリナももうひとりの自分の存在に慣れてきたようだった。


 始めのうちはどうも居心地が悪かった。


 自分を客観的に見て恥ずかしさも感じていた。


「双子の姉妹ってこんな感じなのかな」


「それ私も思った」


 お互いに遠慮しながらの生活も、考えること、やろうとすることは同じだった。


「あなたのことはリーナって呼ぶね」


「うん、わかった」


 リナとリーナはたくさん思い出話をした。


 同じ記憶を持っているためどんなことも共有して共感できるということが楽しかった。


 だがリナはこのままリーナとこのおかしな世界の波に揺られているだけではだめだと心のどこかで感じていた。


「わかってるよリナ。あなたが何を考えているか」


「リーナ」


「私は……リナは、もうひとり自分がいてくれたらってずっと思ってた。でもそれが現実になって周りの人や純くんがコピー人間を作るのがなんだか怖かった」


「うん。実際に純くんのコピーはなんだか純くんじゃないようで」


「自分で経験してみないと何もわからないもんね」


「そう。だから私は決心できた。コピー人間が何者なのか、どうやって出来ているのか、これからどう変わっていくのか何も変わらないのか」


「気がすむまで何でもやって。私も出来ることは何でもやるつもりだから」


「ありがとうリーナ。でもまだ今のところは何にもわかってないけどね」


「あは、そうだね。特別研究施設でも何もなかったんでしょ?」


「うん……入ってからはほぼ寝てたみたいなもんだしね。リーナは何か覚えてる?」


「私も気付いたらベッドの上で。横にリナがいただけ」


「だよね。でも本当にコピーを作る人たくさんいたよね」


「うん。ちょっとゾッとしなかった?」


「したした! どうなっちゃうんだろうね。これからこのままコピー人間が増え続けたら」


「ね。ただでさえ人口が多いのに」


「倍まではいかないけどね」


「人であふれちゃうよね」


「ますます失業者が増えちゃうね」


「本当に。暴動とか起きなきゃいいけど」


「ね」


 実際にリナが行った施設だけでも一日に何百人ものコピー人間が出来ているはずだ。


 H・Bサイエンス社は世界各地の至るところに支社を持っている。


 世界規模で言えば一日に何万人ものコピー人間が増えているのかもしれないのだ。


 このままコピー人間が増え続けたらいったいこの世界はどうなってしまうのだろうか。


 リナが、いや誰もが胸の奥に抱いていたその不安が現実になるのにそれほど時間はかからなかった。





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