23
「だとすると、今街にいるのは政府の人間らを除いたら二十歳から四十五歳までの人たちだけ?」
「野中院長たちが明日呼び出されてるから、それが終われば」
「コピー人間を作らせて人を増やして、せっかく作ったのに次は呼び出されてどこかに行って居なくなってしまった。本当に意味がわからない」
「ね、謎だよね。一体一億円も払ってね」
「一億円……そのお金は全部H・Bサイエンス社に?」
「でしょうね。でも政府も関わっているのならそうとも言えないだろうけど」
「まさかお金のためだけじゃないだろうしね」
「目的がわからないから何もわからない」
「四十五歳以上の全ての人間はどこに行ったのか、二十歳以下の人間はどうなるのか。そして私たちも」
「何がしたいんだろう。そもそもコピー人間を作ろうとした理由は?」
「コピー人間を作って何かメリットってあった? お金の他に」
「うーん、メリットは、仕事がよく回った? 効率よくなったとか、それくらいだよね」
「そうだよね。なんだっけ、物が溢れたんだよね。生産や開発が充実して物が豊かになって潤った」
「できる人間が増えて技術も向上した」
「メリットはそれくらい?」
「そうだと思う。デメリットは?」
「デメリットは……特にないよね。そうだほら、死なないとかってまだ続いてるかな?」
「確かまだ誰も死んでないはずだよ。それもおかしいよね」
「病気は?」
「病気も持病以外には特に何もなさそうだよ」
「コピー人間が病気とかしないのならまだ少しはわかる気がするけどさ、元の私たちもっていうのがちょっとね」
「うん。なんだか人間じゃないみたいだよね」
「うん……えっ?」
「えっ?」
人間じゃない、という言葉にリナは一瞬胸がドキリとしていた。
そしてまさかとは思うが急に不安になってリーナに詰め寄っていた。
「リーナ、私、生きてるよね? 人間だよね? だってこの前指切っちゃった時もちゃんと血が出てたし、ご飯だって食べれるしちゃんと……」
「リナ! 大丈夫だよ。リナはちゃんと生きてるから」
「……うん」
そうだ、ちゃんと生きている。
でもなぜ急に不安になったのか。
よく考えてみれば、それはあの時何をされたのかがわからないからだった。
リーナもそのことにハッとしていた。
「ちょっと待って。もうひとつ謎が増えたね」
「うん。コピーを作ってからそっちに気を取られて大事なことを見落としてた」
「あのH・Bサイエンス社の特別研究施設で私たちにいったい何が施されたのか」
「私たちは三日間、ほとんど意識を失ったままだったから」
「何をされていてもおかしくない」
「ねえリーナ、私の体にどこかおかしいところはない? ちょっとしたことでもいい、変な傷とかさ」
そう言いながらリナは着ていた服を脱ぎリーナに体を調べさせた。
「うーん」
リーナはリナの足の先から手の指先まで隅々までよく見たが特に傷らしい物も何も見つけることは出来なかった。
「何もないよ、大丈夫。もしあの時何かされてたら気付くだろうしね」
「あの時……」
リナはまたハッとしてリーナの顔を見た。
「頭だよ! 頭がズキズキして包帯が巻かれてた。脳の一部を採取するって言ってたから特に気にもしてなかったけど」
「そっか、頭か」
「リーナ!」
「うん、ちょっと待って」
リーナはリナの髪の毛をかき分けながら少しずつ注意深く調べ始めた。
「うーん、耳の後ろ辺りが痛かったんだよね……」
「そう。右も左も両方。傷は絶対にあるはずだから、他に何かない?」
「ああ、確かに丸い点みたいな傷はあるよ。両方に。他には……」
リーナがちょうど後頭部を探っている時だった。
「ん?」
本当によく見ないとわからないくらいの小さな傷のような物を見つけた。
リーナはすぐにスマホを手にしてそのリナの後頭部をカメラで撮った。
「本当に小さいから肉眼では見えない」
「見せて」
リナとリーナはスマホで撮った写真を拡大した。
「ん……アルファベット?」
「A?」
リナの後頭部を写した写真には、確かにアルファベットの「A」に見える傷のような物が写っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます