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「こんなことになってしまって、なんだかすまなかったね」
野中整形外科の院長は申し訳なさそうな顔でリナとリーナにそう言った。
「いえ、院長先生のせいではありませんし、私の方こそコピーまで作っていただいたのになんだか申し訳なくて」
リナもまた申し訳なさそうに院長に頭を下げていた。
高齢者が政府に呼び出され街から姿を消すと、この野中整形外科の役目はもう何も無くなってしまったのだった。
「とにかくこういった病院や施設、企業なんかは国が全て補償してくれるらしいから瀬山さんも何も心配することはないからね」
「はい。助かります」
「本当に今までありがとう。お疲れ様」
「こちらこそお世話になりました」
「うん。それじゃあ」
「はい」
リナとリーナは診療所の片付けを終え荷物をまとめると閉院する野中整形外科に別れを告げた。
野中整形外科だけではなく高齢者を中心に成り立っていた高齢者施設などはもう必要ないということで次々に閉鎖されていた。
職を失わざるを得ない者たちには政府から充分すぎるほどの補償が支払われた。
リナとリーナのようなコピーを持っている従業員に対しても毎月今までと同じ額の給料が振り込まれるということだった。
二人は家に帰るとすぐに向かい合って座りパソコンの電源を入れた。
「高齢者が居なくなるとそれに伴い様々な業種が閉鎖……」
リナは呟きながらパソコンにそうメモしていった。
「ちょっとこれまでの状況を整理してみようか」
「そうだね」
リナとリーナは今まで起こった世の中の異常を二人で逐一こうやってパソコンにメモしてきていたのだった。
「まず、H・Bサイエンス社が緊急会見して人間のコピーを作ると言いだした。これがことの発端よね」
「うん。でもこの時はコピー人間なんて誰も作らないだろうって皆が思ってた」
「でも違った。本宮総理がコピーを作って国民に勧めたから」
「それは大きいよね。そう考えるとこれは最初から政府が仕組んだようにしか見えない」
「政府の陰謀? 何のために?」
「ちょっと待ってね、とりあえずこの先も整理してみよう」
リナは自分が書いたメモを読みながら、リーナはスマホで様々な記事を確認しながら話しを続けた。
「世間の動きだから、純くんのことなんかはとばして……」
「コピーを作ってもらえなかった人が会社を首になる。職を失う。そして低能人と呼ばれるようになる」
「そう。それも本宮総理のひと言が影響して」
「うん。低能人たちは住む所も奪われ完全に分断されていった」
「そりゃ暴動も起きるよね。酷すぎるもん」
「暴動が起きると二十歳以下のコピーを作れない人間が避難させられた」
「ネイチャーランド。各地にあるH・Bサイエンス社が持っている広大な土地」
「噂でしかわからないけど、全てをAIが管理している近未来的な場所」
「特に秘密裏にしているわけでもなく、親たちも連絡がとれる安心安全な場所」
「そして低能人が政府に呼び出される」
「この二十歳以下の人たちとは違って低能人の四十五歳以上の人は呼び出されたきり戻ってこないし連絡もとれない。どこで何をしているのか、誰も何もわからない」
「そして街から四十五歳以上の低能人が消えるとそれに伴って必要なくなった業種が閉鎖される」
「今の現状は街のたくさんの建物が壊されていること」
「人が居なくなった学校やビル、マンションなんかは全部解体してるよね」
「うん。古い家なんかもうほとんど無いし、更地にたまに高層マンションが建ってて、なんだかすごく幻想的な街になったよね」
「本当にそう。工事はめちゃくちゃ早いし、木や草花も植えられたりしてさ。ここ最近で随分変わっちゃったよね」
「コピー人間が増えたから仕事が早いんだって」
「そっか。でも今はコピー人間を作った四十五歳以上の人たちも呼び出されてるんだよね」
「そう。低能人と同じようにね」
「戻ってこない?」
「今のところは戻ってきた人はいないみたいだね」
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