38
広いベッドルームのベッドの横に確かにチェストがあった。
三つある引き出しの一番上を開けると中にはスマホに似た電子機器のような物が置いてあった。
そういえば自分が今まで使っていたスマホやパソコンがどこにもない。
リナは急いでクローゼットの中からバッグを取り出した。
いつも使っているバッグに入れておいた財布やカード類を入れていたケースがなかった。
免許証も保険証もクレジットカードも何もかも無くなっていた。
この世界では必要ないということなのか。
リナはチェストに戻りスマホのような物を取り出して見てみた。
その下にはメモのような紙があった。
『ライフについて』
そう書かれた紙にざっと目を通した。
どうやらこれはライフという機械でこれにリナの何もかもが入っているらしい。
リナはライフをコートのポケットに入れてから二番目の引き出しを開けた。
ライフよりも大きなタブレットのような物が入っていた。
それをベッドの上に放り投げるとリナは外へ出た。
リナの家の前に車が停まっていた。
リナは助手席に乗った。
「ごめん、お待たせ」
「わかった?」
「ああ、うん。これだよね」
リナはポケットからライフを取り出して直央に見せた。
「そう。それが俺たちの身分証みたいなもんらしいね」
そう言っている直央の方を見てリナは何かおかしいことに気付いた。
「あれ? この車、ハンドルがない?」
「ああ、そうそう。キーもないしハンドルもブレーキも何もついてなかった。自動運転らしいね」
「へえ」
「あるのはこの画面だけ。リナさんどこか行きたいところある?」
「私は、まだよくわからないから」
「じゃあ俺ちょっと行きたいところあるんだよね。いい?」
「うん、もちろんだよ」
「よし。じゃあ出発」
そう言うと直央は画面をタッチした。
「わ、すごい」
車は滑らかに動き出した。
「本当だよ、いきなり未来に来たみたいだよね」
「うん」
リナは直央の前にある画面を覗き込んだり外の景色を見たりとキョロキョロしていた。
画面には地図が表示されており、どうやらタッチするだけで目的地に行けるようだった。
「タブレットも入ってなかった?」
「入ってた」
「あれにAIタウンの地図が乗ってたよ。あとは映画とか音楽とか本とか、エンタメ系が盛りだくさん」
「直央くんのスマホも無くなってた?」
「うん、無くなってた。今までの人生は捨てろって意味にしかとれないよね」
「……そうだね」
「俺さ、人を探してるんだよね。街の中心部にお店とかあるっぽいから、そこに行ってみていい?」
「うん、わかった」
「もしその人がここに来てるなら、とりあえず人が集まる場所に行くと思うんだ」
「家族か、恋人?」
「ううん。同じバラックで生活してた人。頼りになる優しいお兄さんって感じかな」
「バラック……」
「はは、懐かしいよ。バラックに居たのはついこの間だったのに、もうだいぶ前のことのような気がする」
そう言って直央は笑っていた。
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