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「鬼木社長、今までどこにいらしてたのですか?」
「人間のクローンの研究はどうなったのでしょうか」
「鬼木社長!」
「鬼木社長……」
記者たちが一斉に鬼木に向かって言葉を浴びせかけていた。
それを見て苦笑いをしている鬼木。
もう七十歳は超えているだろうが顔色も良く堂々として真っ直ぐな姿勢を保ったまま座っていた。
記者たちの興奮も落ち着いた頃、ようやく鬼木が口を開いた。
「本日はお忙しい中お集まりいただき誠にありがとうございます」
そう言って頭を下げるとまたシャッター音が一斉に響きわたる。
カメラのフラッシュが眩しいのか時おり目を細めながら鬼木は続けた。
「私がなぜ人間のクローンを作りたかったか。まずはそこからご理解していただきたい」
今度は物音ひとつしなくなった。
皆が鬼木が何を話すのか、一言一句見逃すまいと息をのんでいた。
「皆さんはこう考えたことはありませんか? 自分がもうひとりいてくれたら、と」
その言葉を聞いてリナは心臓がドクンと動いたのを感じた。
「私がこのH・Bサイエンスを起ち上げてから四十年、ありがたいことにとても忙しい日々を送らせてもらいました。社長ではありますがもとは私も研究者。会社の経営と薬の研究で寝る暇もなかった。その頃から私は常にもうひとり、自分という人間がもうひとりいてくれたらどんなに仕事がはかどるだろうと考えていました」
「そこで注目したのがクローンでした。自分のクローンを作ればと安易な考えで研究してみました。でも皆さんご存知のとおり、クローンとは同じ遺伝子を持つ子どもを作って産むことです。それでは私が求めている『もうひとりの自分』とはまったく意味が違います。同じ遺伝子を持つ子どもを作ったところで全てが自分と同じであるわけがないですし、そもそも時間がかかり過ぎる」
「次に注目したのはやはりAI、アンドロイドですよね」
鬼木はそう言うとペットボトルの水を口に含んで飲み込んだ。
「ところがこのアンドロイドも私が求めるものには到底追い付くことは出来ませんでした。一見すると自分の思考や行動、これまで見たもの感じたもの、様々な経験を緻密にプログラムに入力すればと思い日々研究しました。確かに、例えばゲームの中では自分のキャラクターを思う通りに動かすことが出来ます。でもそこで気付きました。私はアンドロイドを好きなように動かしたいわけではなかった。あくまでも私は『もうひとりの自分』が欲しかった」
「そして私はついに、長年の願いである『もうひとりの自分』を作ることに成功しました」
また記者たちがざわつき始めた。
「鬼木社長、いったいどういうことですか?」
「もっとわかりやすく簡潔にお願いします」
長々と話す鬼木に記者が痺れを切らしているようだった。
そんな記者たちを鬼木は笑顔で眺めていた。
「では簡潔に申し上げます。この度、私どもH・Bサイエンス社は、人間の、自分のコピーを作ることに成功いたしました!」
一瞬の沈黙のあと場内がまたざわめく。
「ハッハッハ。皆さん信じられないという顔をされていますね」
「当たり前じゃないですか」
「どういうことですか」
鬼木は記者を制しながら言った。
「では今から証拠をお見せいたしましょう。いや、皆さんはもう初めからずっと証拠を見ておられた」
「は?」
「鬼木社長いったい」
「証拠?」
「実は私は鬼木のコピー人間です。鬼木本人ではありません。さあ鬼木社長、こちらへどうぞ」
鬼木がそう言うと部屋のドアが開き、もうひとり、鬼木が入ってきた。
「えっ?」
「あらぁ~」
「ホウ」
待ち合い室の患者たちも声をあげずにはいられなかったようだった。
画面に映るまったく同じ、双子のような二人の鬼木。
違うのはハットを被っているかいないかだけ。
シャッター音とフラッシュが飛び交う中、二人の鬼木は並んで立っていた。
「いやいや皆さん、驚かれたことでしょう。私が元の鬼木です」
そう言ってお辞儀する本物の鬼木。
「どうです? 彼は『もうひとりの自分』です。見た目はもちろん考えも行動も全てが私のコピーなのです。すでに我が社では優秀な人間はコピーして働いてもらっております。おかげで仕事の効率はグンとアップしました。希望があればいつでも皆さんのコピーを作ってさし上げます。一体一億円! どうです? お安いと思いませんか?」
二人の鬼木は嬉しそうに笑顔を振り撒いていた。
「では、詳しい話しはうちのエースである研究員の小笠原に」
そう言うと二人の鬼木は記者からの問い掛けを無視しながらすぐに部屋から出ていってしまった。
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