9
「え……純くんは?」
リナは思わずコピー人間を睨み付けるようにしながら冷たく言い放った。
「リナ、はは、俺は純だよ。とりあえず入るぞ」
「あっ」
リナが呆然としているとコピー人間はさっと靴を脱ぎリナの部屋の中に入っていった。
「ちょっと……」
コピー人間はまるで純かのようにいつも純が座る位置のクッションに座った。
「あっちの純はまだ仕事中。リナ、おいで」
いつものように隣に座れと言わんばかりに床をとんとんと叩くコピー人間。
リナは恐る恐る純の横に腰をおろした。
「リナ一週間も休みなんてよかったな。俺も明日は午後からの出勤にしてもらったから、久しぶりにゆっくり一緒にいられるな」
そう言ってコピー人間はリナの手を優しく握った。
「えっと、あの、何て呼べば……」
「は? もう、リナ。俺は純だってば。まいったな、どうしたらわかってもらえる?」
「でも」
「確かに髪の毛はまだ生えてないけどさ。他に違うところある?」
そう言われてリナもコピー人間をよく見た。
喋り方も優しい笑顔も、声も体も純と何も変わらない。
純そのものだ。
だが何だろう。
頭の中で理解が追い付かないのか、リナには目の前のこの男があの大好きな純だとは思えないでいた。
それどころか少し怖いとも感じていた。
純のようで純ではない。
言葉ではうまく言えないがどうしてもこのコピー人間を受け入れることが出来ないのだ。
「な? 手だって体だっていつもと同じだろ?」
「あ」
コピー人間はリナをギュッと抱き締めた。
「リナ、俺も会いたかった」
そう言うとコピー人間はリナの顔を引き寄せキスをした。
「ん……」
この優しい唇もリナは知っている。
でも……でも……。
「いや!」
リナはコピー人間から顔を背けた。
「リナ、どうしたんだよ」
コピー人間はリナの腰を引き寄せたままぐっと力を入れた。
「なあ、リナ」
そしてそのままリナを抱えあげるとコピー人間はリナの華奢で小さな体をベッドに押し倒した。
「や、ちょっと」
コピー人間はリナを押さえつけるようにしながらリナの口を自分の唇でふさいだ。
「リナ……」
そしてリナの服の中へと手を忍ばせてきた。
「あっ」
その手は脇腹からゆっくりと上へのぼってくる。
純の触り方と同じだった。
でもやっぱり何かが違う。
気持ち悪い。
「いやっ!」
リナは思わずコピー人間の肩を強く殴った。
「イテッ」
「やめて」
リナはすぐさま起き上がりコピー人間の腕をすり抜けるようにベッドから離れた。
「リナ?」
「ごめんなさい、私には無理みたい」
リナは逃げるように壁に背中を押し付けた。
「リナ……どうしたんだよ」
悲しそうな顔でリナを見るコピー人間。
「ごめんなさい……」
リナはとうとう泣き出してしまっていた。
「リナ、そんなに俺が嫌だった?」
コピー人間はリナに近寄りリナの顔を覗き込んだ。
「ごめん」
「……そっか。わかった。今日は帰るよ」
コピー人間は泣いているリナの頭を優しく撫でてから部屋を出ていった。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
リナは泣きながら誰もいなくなった部屋でひとり謝り続けていた。
なぜこうもコピー人間を拒絶してしまうのか、自分が何かおかしいのか。
それからリナはずっとそのことばかりを考えていた。
そして三日後、リナは純との別れを決意した。
お別れのメッセージを送った。
ちゃんと会って話した方がいいのはわかっていたが、リナはどうしてもそれが出来なかった。
純からの返事はすぐに届いた。
『わかった。俺の方こそありがとう。さようなら』
そのメッセージを見てもリナは何も感じなかった。
ただぽっかりと心に穴が空いたような感覚だった。
そしてリナはその心を埋めるためにひとつ決心していた。
コピー人間のことを理解するためには自分がその立場にならないといけない。
自分で実際に確かめなければ納得する答えを導くことは出来ない。
コピー人間は本当にもうひとりの自分なのか。
本当に自分と全く同じなのか。
リナは自分のコピー人間を作ろうと心に決めたのだった。
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