過去
27
明るくて友達も多く好奇心が旺盛で勉強熱心。
成績は常にトップだがそれをひけらかすこともなく誰とでも仲良くできる心優しい子。
小学生までの鬼木学はそんな子どもだった。
だが父親は子どもの鬼木から見てもどうしようもない男だった。
酒と女に溺れ家に帰ってくるのはごくたまにだった。
帰ってくるといつも酔っ払っている父親はなぜか怒ってイライラしており家の中にある物を床に叩きつける。
床は割れた食器などでぐちゃぐちゃになり小さな子どもたちは恐怖で押し入れの中に隠れなければならなかった。
そして泣いている母親からお金を取り上げまたすぐに出て行く。
そんな父親のことをまだ子どもだった鬼木はいつも軽蔑した目で見ていた。
六人兄弟の長男であった優しい鬼木はこのろくでもない男から弟たちを守ろうと心に誓った。
あんな大人には絶対にさせたくない。
そのためには自分がしっかり勉強してちゃんとした大人になることだと考えた鬼木はとにかく必死で勉強するしかなかった。
ところがそんな父親に耐えきれなくなった母親は離婚を決意した。
するとひとりで子ども六人はかかえきれないからと言って鬼木は遠い親戚の家に養子に出されることになってしまったのだった。
ひとりだけ家族から引き離され顔も知らない親戚の子どもになった鬼木。
そこからさらに鬼木にとっての悪夢は続いた。
のびのびと暮らしていた田舎からぎすぎすした都会の暮らしに慣れる間もなく叔父と叔母は鬼木に家のことを何でも押し付けた。
共働きしていた二人に代わり朝早くから朝食を作らされた。
掃除や洗濯、小学生の実の息子二人の面倒も押し付けられた。
そのため鬼木は学校が終わるとすぐに家に帰り買い物をして夕食の準備をしなければならなかった。
当然友達を作る暇はなかった。
家のことと勉強で精一杯だった鬼木はクラスの皆の話題にもついていけず馴染むことすらできなかった。
鬼木は叔父と叔母にまるで使用人のように扱われていたのだ。
その頃から鬼木は大人という生き物がさらに嫌いになっていた。
自分勝手で我が儘で勉強も出来ないくせに偉そうにする。
働いてお金を稼ぎ子どもに飯を食わせることがそんなに偉いのか。
そんなの当然のことなのにどうして大人は自分が一番偉いと思っているのだろうか。
そのくせにやたらと人の真似をしたり人と自分を比べて悦に入っている。
強い者にはへこへこと頭を下げ、弱い者を見下し奴隷のように扱う。
鬼木からするとそれはとても汚らわしく醜い化け物にしか見えなかった。
そして追い討ちをかけたのは叔父と叔母から聞いた鬼木の実の母親のことだった。
そもそも父親があんなに荒れていたのはどうやら母親の浮気が原因らしかった。
それを聞かされた高校生の鬼木はいても立ってもいられなくなり叔父と叔母に内緒で夏休みに約五年ぶりに実家へと足を運んだ。
そんな母親のもとにいる弟や妹たちが心配だったのだ。
貯金箱いっぱいに貯めておいた十円玉を持ってバスを乗り継ぎ久しぶりの我が家の前に立った鬼木は愕然となった。
そこにあったはずの家は跡形もなく、ただの空き地となっていた。
しばらく立ち尽くしていた鬼木はそばを通りかかった女の人にここにあった家のことを尋ねた。
「ああ、鬼木さんね。二、三年くらい前かしら。火事で全焼、一家全員亡くなられたのよ。無理心中だったみたいね」
それを聞いた鬼木はただショックのあまりそこから一歩も動くことが出来なかった。
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