11



 特別研究施設には大勢の人がいた。


 皆コピーを作りに来ていたのだ。


 誰もいない受け付けで番号札を取りしばらく待っていると頭上の大きなスクリーンにリナの番号が映し出された。


 指示通り、リナは他の人間たちの列に並び奥のドアから中へと入った。


 中はホテルのようで両側にまたたくさんのドアがあった。


 また頭上のモニターに映し出される通りにひとりずつそれぞれの部屋に入っていく。


 リナも番号が書かれたドアの中に入ると個室のような部屋で、ベッドが置いてあるだけだった。


 『手荷物を置き検査着に着替えてベッドに横になって下さい……手荷物を置き検査着に着替えてベッドに横になって下さい……』


 音声案内の声が繰り返しそう言い続けていた。


 リナは音声案内の言う通り、検査着に着替えてベッドに横になった。


 『しばらくそのままでお待ち下さい』


 音声案内はそう言ったまま静かになった。


 するとすぐにドアをノックしてから白衣を着た男が部屋に入ってきた。


「麻酔のアレルギーはないですか」


 淡々と話す声。


 その声の主はあの会見で鬼木の隣に座っていた研究員の小笠原だった。


「はい、大丈夫です」


 リナがそう答える間に小笠原は黙々と注射の準備をしていた。


「少しチクッとします」


「はい」


 慣れた手つきで小笠原はリナの肩に注射を打った。


 何も考える暇もなくその言葉を最後にリナの意識は失くなっていた。



 目が覚めたリナはまず自分がどこにいるのかわからなくなっていた。


 しばらく考えて自分がコピーを作りに来たことを思い出していた。


「ん……」


 顔を動かそうとすると頭がズキッと痛んだ。


 どうやら頭に包帯が巻かれているようだった。


 そして両方の腕に注射を射した後の白いシールが貼られていた。


 気分は悪くはなかったがなんだかだるさを感じていた。


 その時また音声案内が流れ出した。


 『おはようございます セヤマリナ様 扉を出て右奥のエレベーターで十階までお越し下さい……おはようございます セヤマリナ様 扉を出て右奥のエレベーターで十階までお越し下さい……』


 また延々と繰り返す音声。


 リナは重い体を起こしてベッドから起き上がった。


 少しふらふらしながらリナは外へ出た。


 案内の通りに右へ進むとエレベーターはあった。


 十階のボタンを押しながらリナは考えていた。


 人の気配がない。


 コピーを作りに来た人は大勢いた。


 まだみんな寝ているのだろうか。


 それにここには従業員はいないのだろうか。


 受け付けにも人はいなかった。


 見たのはあの小笠原だけだ。


 あとは全て音声案内。


 不安になりながらもエレベーターは十階で停まりドアが開いた。


「おはようございます」


 出迎えてくれたのはあの小笠原だった。


「おはようございます」


「どうぞ」


 小笠原はすぐに背中を向け歩き出した。


 またホテルのような廊下だったがさっきと違うのはドアがひとつしかなかったことだ。


 そのドアを開けると小笠原は背を向けたままひとり言のように話した。


「それでは生体カプセルに入っていただきます。四十八時間後には自分のコピー人間が出来てますので」


「はい」


 部屋の中は一見倉庫のようでとても広かった。


 そこに小笠原が言う生体カプセルなのか、人が立ったままで入れるサイズの、確かにカプセルのような大きな物が対になって何十台、いや何百台だろうか、ところ狭しと並べられていた。


 中は見えなかったがおそらくすでにたくさんの人間が入っているのだろう。


 カプセルをいくつも通りすぎてやっと小笠原が立ち止まった。


 何やらボタンを押すとカプセルのドアが開いた。


「どうぞ」


 リナは恐る恐るカプセルの中に足を踏み入れた。


「あの……」


「はい」


 リナはさっきから気になっていたことを聞いてみた。


「他に従業員の方はいらっしゃらないのですか?」


 リナの言葉にも小笠原は表情ひとつ変えることはなかった。


「ここは私と私のコピーだけです。他に従業員はいませんが何か」


「そうですか。いえ、何でもありません」


 小笠原は黙々とリナの頭と腕と足を固定した。


「それでは四十八時間後に」


「はい」


 小笠原がカプセルのドアを閉めた。


 リナの視界は真っ白になった。





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