第33話 無道戦役

 ゼニスは目の前の濃い灰色の肌色をしたドワーフの少年を見て驚愕に目を見開いた。


 少年の名はキール。今はなき黒土シュパッツェボードゥン族の国の王子だ。


 黒土シュパッツェボードゥン族とは、ドワーフ七支族の一つである。


 ドワーフ七支族とは、

 白土ヴァイスボードゥン

 青土ブラゥボードゥン

 赤土ウォゥトゥボードゥン

 黄土ゲルプボードゥン

 緑土グゥンボードゥン

 紫土ポゥパァボードゥン

 黒土シュパッツェボードゥン

の七つの支族の総称である。


 今回の大戦、『混沌カオス戦争』は、ドワーフの支族間の不和がきっかけとなって起こった。


 黒土シュパッツェボードゥン族は黒に象徴される闇属性を有している。

 属性によって善悪を判断できる訳ではないが、他の六支族が黒土シュパッツェボードゥン族を疑った。

 黒土シュパッツェボードゥン族の刃金の製造技術を狙う者がそれに拍車をかけたようだった。


 他の六支族も黒土シュパッツェボードゥン族の製造技術と王家伝来の品に眩んだこと、ドワーフの結束を高めるための生贄として黒土シュパッツェボードゥン族を叩こうという思惑で一致した。


 百数十年前の大戦での固い結束を誇った彼らも時の流れとともに不和の種を抱えてしまった。

 それを黒土シュパッツェボードゥン族を叩くことで結束を固めようとしたのだ。


 黒土シュパッツェボードゥン族を除く六支族は、黒土シュパッツェボードゥン族に対し、『魔族と結託していない証』を立てることを要求し、その証として黒土シュパッツェボードゥン族王家に伝わる『黒刃斧』の譲渡と王家秘伝の『黒刃金』の製法開示、更には六支族それぞれに対して1000人ずつの労働力供出を求めた。


 これに対し、黒土シュパッツェボードゥン族のガルラ王は、『黒土シュパッツェボードゥン族を疑うのであれば、六支族が黒土シュパッツェボードゥン族が魔族と結託していることを根拠づける証拠を示すべきである』として反発。

 周辺四ヵ国に使いを送り理解を求めた。


 しかし--


『七支族において、黒土シュパッツェボードゥン族が信頼を失っているというのであれば、黒土シュパッツェボードゥン族が信頼の証を立てるべきである。』


 このように、周辺国は六支族の言い分を認め、黒土シュパッツェボードゥン族に証を立てること、つまり、周辺国に対しても『黒刃金』の製法開示、1000人ずつの労働力供出を求めた。


 周辺四ヵ国もまた利益に目が眩み、六支族と同様に振舞ったのだ。


 こうして、神王ゼウスですら眉を顰めた、六支族と周辺四ヵ国の連合国と黒土シュパッツェボードゥン族の間の戦争、『無道戦役』が勃発し、この混乱に乗じて魔王が動き出し『混沌カオス戦争』が始まったのである。


 この結果、黒土シュパッツェボードゥン族のガルラ王、ターラ王妃を始めとする王族・貴族の主だった者は戦場で散り、黒土シュパッツェボードゥン族の者たちは奴隷として各国に連れ去られた。


 これが黒土シュパッツェボードゥン族の滅亡の顛末である。


 ◇◆◇

 --あの混乱の中で薨去されたと思われていたが…ご健在だったとは…。


 ゼニスはあの『無道戦役』の際に死んだとされていた王子の無事な様子に感極まる思いだった。


 しかし--


「大賢者様、お久しぶりです。では、薬湯はこちらに置いておきますので…。」


 キールは冥王が座る椅子の傍の机に薬湯を置くが、その目は死んだように暗かった。


「ホホホ。キールさん、ありがとうございます。ワタシは大賢者と話がありますので、自由にしてくれて構いませんよ。」


「いえ、何かしたいのですが…」


「それなら、No.1サムのところに行きなさい。彼は今、畑づくりに精を出していますから、人手が増えると喜ぶでしょう。」


「はい!分かりました。」


 少しだけ目が明るくなったキールは部屋から出て行く。


「冥王。どういうことだ?何故、キール殿下がここに?」


 ゼニスは冥王を睨みつけるのであった…。

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