第38話 王たちの思惑①
「ワタシと邪悪龍サン、妖精王サンとで話し合い、鉱産資源が出てこないようにしたのですよ」
『
--人間に敵対している冥王と邪悪龍が行なったというなら話は分かる。しかし、聖の陣営に属するはずの妖精王が主導したとは……。
「『無道戦役』における人とドワーフの行いが責められるべきものだということは理解できる。だが、大戦の時期を早めるだと?それでどれだけの者が死んだのか分かっているのか?」
ゼニスは怒りを露わにして更に続ける。
「『
それが、仕組まれた戦いによって死んだなど……認めてたまるか!」
ゼニスは一気に捲し立てたせいか息が荒くなる。
「妖精王サンは、魔王サンの力が満ちる前の段階で大戦が起こるようにすることで被害を抑えたかったようですねえ。魔王サンが兵を引いたのは……ちょっとよく分からないですねえ。ワタシもアナタから受けた傷の治療のため、『獣王の郷』で休んでいましたからねえ」
--あれで魔王が完全でないだと? 魔王とはどれほどの力を持っているのだ?
ゼニスは魔王と戦ったときのことを思い出し驚愕していると、冥王が更に話を続ける。
「それに『仕組まれた戦い』ですか。片腹痛いですねえ。
--やはり、冥王も知っていたか…。『アドミニストレータ』の存在を…。
冥王とゼニスが初めて戦った時の力の余波を利用して大賢者アルネ・サクヌッセンムは自身が存する時空へとゼニスを誘った。
その時に聞かされた世界の秘密。七柱の『真なる王』すら制する手段を持ち、人間と魔族を戦わせ、厄災を撒き散らす存在、『アドミニストレータ』の存在を。
「ワタシの使命は、死せる魂を裁き、現世の罪を罰する事で浄化し、来世へと送り出すという輪廻の円環の半分を司ることですねえ。
そうすることで、魂の進化を促し、以ってこの世界が更なる次元へと至るのです。生者をみだりに殺し、冥府へと送ることは現世での魂の修行を妨害すること。このワタシにとって看過できることではないのですよ」
「冥王、貴様は…。『アドミニストレータ』を……」
「その通りですねえ。彼奴は争いのないところに争いの種を撒き、愉悦に浸る……。そもそも、魔族と人間が周期的に争う必要はないのですよ。この世界に存在する意思ある者たち……。意思あるが故に不和を生じ争いが発生するのは、ワタシからすれば問題ないのですよ。争いという困難に立ち向かう。ある者は勇気を奮って戦いに赴き、またある者は争いの元になる不和を無くすべく立ち上がる……。これは魂の修行の一つの形ですねえ」
「争いの中で生きることが魂の修行になる……。それが一つの形……。ならば、もう一つの形とは平和の中で、他者を愛し、恵みに感謝し、自己の才能を開花させるということか?」
「ホホホ。流石は大賢者ですねえ。その通りですよ。平和の中での魂の修行というものも存在するのですよ。他者を愛することによって生ずる困難、恵みを得るために解決しなければならない困難、自己の才能を開花させるためにぶつかる困難、それらに立ち向かい、乗り越えることも魂を高度な次元へと引き上げる修行となるのですよ。
それと、平和を維持しようとすることも含まれますねえ」
「冥王、貴様にとっては、争いであろうと平和であろうと構わないということか?」
「ホホホ。できれば平和な方がいいですねえ。争いは戦う力を十分に持たない者から死んでいきますからねえ。争いを乗り越えることも魂の修行なのですが、子供や戦いに向かない者に乗り越えろというのは無理な話ですねえ。故に仕組まれた戦いが存在する世界の在り方は、ワタシにとっては面白いものとは言えないのですよ」
ここでゼニスはふと頭に浮かんだことを問いかける。
「では、冥王。お前以外の『真なる王』たちはどう考えている?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます