第39話 王たちの思惑②

「では、冥王。お前以外の『真なる王』たちはどう考えている?」


 ゼニスは冥王に問う。世界の運営を担い、強大な力を有する『真なる王』たちの思惑は世界に対する影響が大きすぎるからだ。


「ホホホ。ゼウスとポセイドンは静観していますねえ。彼らが下手に動くとこの世界自体が消滅してしまいますからねえ。魔王サンは勇者を葬ることで、この世界の在り方を打ち砕こうとしていますねえ」


「では、黄金龍、妖精王、邪悪龍はどうだ?」


 神王ゼウスと海王ポセイドン、そして魔王についてはゼニスの想像通りだった。

 では、因縁浅からぬこの三柱の王たちは……?


「黄金龍サンとは永らくお話ししていないので、推測になりますが……、思うところがあるようですねえ。160年ほど前の『真魔大戦』における邪悪龍サンとの決戦を制しておきながら、封印を勇者たちに押しつけて『誰も知らない聖地』に引きこもりましたからねえ。その気になればトドメを刺して、唯一の龍王になれたはずなんですがねえ」


「黄金龍アルハザードと邪悪龍ヴァデュグリィの争いは宿命づけられたもの……。それを拒絶したのか?」


「ホホホ。『宿命』? 妙なことを言いますねえ。我ら『真なる王』にそんな大それたことができるのは……?」


 冥王に促されゼニスは一つの結論に到達する。


「まさか! アドミニストレータか!」


「その通りですねえ。彼奴がこの世界の創造に関わったのは事実。問題は……己が欲望のために余計なことばかりしていることですねえ!!」


 冥王は怒りを露わにする。


 --黄金龍が宿命を拒絶し、冥王がここまで怒りを露わにするとは……。では、妖精王と邪悪龍は……?


「妖精王サンは先程も申し上げたように、魔族と人間の大戦の時期に干渉するなど、何をすべきか模索しているようですねえ。邪悪龍サンは性質が変わったようですねえ」


「邪悪龍の性質が変わっただと……? まさか、『腐海』か!」


「ホホホ。その通りですねえ。邪悪龍サンの封印の効力は300年。100年経過したあたりから、邪悪龍サンの力が漏れ出るようになりました。闇の龍王たる邪悪龍サンの力が漏れ出るなら、封印周辺は闇の領域になるはず。にも関わらず封印周辺に現れたのは意思ある存在の思考を乱す『腐海』。先日お話ししたときに伺いたかったのですが、聞きそびれたんですよねえ」


「そうか……しかし、お前の話からすると邪悪龍と妖精王は和解したように思えるが……?」


「ホホホ。邪悪龍サンの性質の変化がもたらしたのか、それとも彼女たちの関係に仕組まれたものを拒絶したからですかねえ」


「仕組まれたものとは、邪悪龍、妖精王ともに地表と地下の支配権を有するということか?」


「ホホホ。聖と魔に属する彼女たちに地表と地下の支配権が与えられた……。これは彼女たちをあい争うべきものになるべく仕組まれたと言えなくもないですねえ。しかし、彼女たちは折り合いをつけ、共存することを選んだ……。そういう事だとワタシは思っているのですよ」


 かつて暗黒龍と呼ばれたヴァデュグリィは、過去に行なった暴虐により、いつしか邪悪龍と呼ばれるようになった。そのため、妖精王と和解に至ったということがゼニスにはにわかに信じられるものではなかった。


「邪悪龍は何を考えている……?」


 ゼニスは絞り出すような声で冥王に問う。


「ホホホ。邪悪龍サンが欲するものは『物語』のようですねえ。この世界に存在する者たちが作り上げる物語に興味を持っているのですよ。獣王サンを『真なる王』とすべきかが話し合われた際も、そのようなことを言っていたようですねえ」


 --それでは、かつてのように暴虐を働くことはないのか? それなら……いや、冥王は今何と言った?


「獣王が『真なる王』だと? どういうことだ? 話し合いとは何なんだ?」


 ゼニスは目を見開き冥王に問うのだった。

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