第35話 三王合意①
「彼らを救うことが出来なかった者にとやかく言われる覚えはないんですがねえ!」
冥王の切り返しにゼニスは言葉を失う。
「仮にアナタ方の正義に基づき、彼らに眠りについてもらった場合、
冥王はゼニスに問いかける。
「何?冥王、貴様、
ゼニスは冥王の問いかけに驚く。
「彼らの秘伝を継承する権利を有しているのは、
その権利を立場を利用して奪うのは、『冥王の沽券』に関わるのですよ!」
冥王は語気を強めて言う。
−–そう言えば、ガルラ王の様子からは冥王に対して嫌々従っている様子はなかった。とすれば、秘伝を無理矢理聞き出していないというのは真実か!
『冥王様は早速、六支族の糞どもに一泡吹かせて下さった。あれは痛快だったわ!』
ゼニスの脳裏にガルラ王の言葉が甦る。
この言葉と『
「冥王、話は変わるが『
目の前にいる冥王は『冥王を僭称する魔族』と言われているが、ゼニスは目の前にいるこの男こそが『真なる冥王』である事を知っている。
そうであったとしても、冥王の支配領域は冥府と冥府に隣接する地下の大深部。残りの地下と地表部分は邪悪龍ヴァデュグリィと妖精王ニヴィアンが支配している。邪悪龍が主に地下部分、妖精王が主に地表部分となり、どちらの割合が多いかは地域によって異なる。
このため、冥王が鉱産資源に干渉したとしても、地下や地表に存在する鉱産資源には影響はないはずなのだ。
「それは、鉱産資源を枯渇させたことですかねえ?」
冥王は両手を組み、左手で顎を触りながら興味深そうに聞く。
「そうだ。貴様の権能が及ぶのは冥府及び地下の大深部のはず…。
地下及び地表は妖精王ニヴィアンと邪悪龍ヴァデュグリィの領域だぞ。
鉱産資源は地下大深部より生じ、龍脈の流れの影響を受けながら各地に流れていく…。
貴様が大深部からの流れを堰き止めたとしても、地下や地表部分のものがすぐに消えるわけではない。
それにも関わらず、鉱産資源は『無道戦役』を境に急に産出されなくなった。
貴様が予め堰き止めていたという事なら分かる。
しかし、そんなことをすれば、封印中の邪悪龍はともかく、妖精王との衝突があるはずなのに、それもない。
ガルラ王の口ぶりからは、『無道戦役』を受けてのことなので、予め準備していることもないだろう。
どういうことだ?冥王。」
「ホホホ。簡単なことです。妖精王サンと邪悪龍サンとお話をした結果、魔族領以外で鉱産資源を産出できないようにしたのですよ。」
冥王はニヤリと笑いながら言う。
◇◆◇
『無動戦争』終結直後
兜を脱いだ冥王は妖精王ニヴィアンの住まう妖精郷の入り口に足を踏み入れる。
妖精郷は大森林の奥地のエルフたちの集落の奥にある聖域を超えたところにあり、冥府への入り口と神界への入り口とを兼ねた場所でもある。
「止まれ」
妖精郷の入り口を守る二人のエルフに冥王は呼び止められる。
「大事な話があるので、妖精王サンに取り次いで欲しいですねえ。」
丁度いいところに来たと言わんばかりだ。
「何だと?それにどうやってここまで来た?我が同胞たちはどうした?」
二人のエルフは冥王が力づくでここまで来たと思い、怒りに体が震えている。
「ホホホ。心配なさらなくて構わないですよ。エルフの皆さんは元気にされていますよ。」
「我が同胞たちが貴様を通すなど考えられぬ!返答次第ではここで貴様を討ち取らせてもらう!」
エルフたちは矢を弓につがえ、冥王に放たんとした瞬間、清涼な風が流れ込み一人の女性が現れる。
「控えなさい。冥王に手出し無用です。」
「よ、妖精王様…!」
現れた女性は妖精王ニヴィアン。角度によっては透き通るような白い肌に見え、違う角度からは樹皮のような茶色にも見える肌をし、緑色の髪をしている。
「しかし!我が同胞が!」
エルフの守人は冥王がエルフたちを害したと信じて疑わないようだ。
「冥王が害していないというなら、その通りなのでしょう。転移も叶わず、エルフたちの集落を通らずにはたどり着くことができないこの地に、エルフたちに気づかれずに到達する…。他の誰にも為し得ないとしても、冥王なら可能なのですよ。
しかし、冥王。貴方がその力を使うという事は緊急性の高い用事のようですね。」
ニヴィアンは守人たちを諭し、冥王に向き直る。
「ホホホ。妖精王サン、話が早くて助かりますねえ。」
「では、冥王。こちらにおいでなさい。」
ニヴィアンは冥王に妖精郷の居城に来るよう促すのであった…。
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