第19話 冥王の願いと敗北

神界オリュンポスのパルテノン神殿の一室で、神王ゼウスは地上の戦いを見守っていた。


「ゼウスよ、兄者はまた人間たちと戦っているのか?」

長椅子に座りながら海王ポセイドンはゼウスに問いかける。


「そうだ。200年前とは違い、正気を保っている。どうやら何かお考えがあるようなのだ。」


「お考え…か。それがアルネ・サクヌッセンムのお気に入りとの一騎打ち…か。しかし、あの様子では…。」


「そうだ。あの『痴れ者』に名を奪われ、力を失った上に、『神器』を手放し、今魔力が底を尽きかけていのだからな…!」


「獣人たち全員に魔法を使うとは兄者らしくはあるのだがな。

して、ゼウスよ。我を呼び出したのは兄者の件か?」


「そうだ。ポセイドンよ。そして、兄者から『お願い』が来たのだ。『獣王を戴冠させよ』とな。」


◇◆◇

「『八大邪』!」

「『八大聖』!」

冥王と大賢者の周囲に展開される力場から闇の奔流と光の奔流が放たれる。


「ワタシの秘術の魔法構成を聖属性でやってのけるとは…!」

冥王は大賢者の術が自分の秘術を取り入れた大賢者に驚く。自分と同じことを性質の異なる魔力で成したことに驚嘆する。


「術は互角!後は互いに残った力の勝負だ!」

術も術者も同レベルなら、残った力の勝負になる。しかしーー


「冥王たるワタシに底力で勝てると…?」

冥王と人間の魔力量は歴然とした差がある。大賢者であっても冥王の半分もいかないのだ。


「余力はそれ程ないのだろう?『冥雹嵐』の後、普通に戦えばお前の勝ちだった筈だ。『冥王の護り』などという魔王ですら使えるか怪しい巫山戯た魔法を獣王軍全員にかけるなど…如何に冥王と言えども魔力の大半を失って当然だ。だから、勝負を急いだ。違うか?」


見抜かれていたか。冥王には不思議と清々しい気持ちになった。

「ホホホ。お見通しでしたか…少しアナタを舐めすぎましたかねえ。ウボァぁぁぁー!」


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