第13話 冥王飛来
獣王軍が王国軍魔法職たちの射程圏内に入ったとき、上空から冥王が飛来した。
「ホホホ。大ー賢ー者ーはどーこですかぁ?」
「貴様は後!」
大賢者はヤケ気味に答える。
「ホホホ。つれないですねえ。では、待つと致しましょうか。」
意外な答えが返ってくる。
「貴様!」
ベレスは冥王のふざけた返答に声を荒げてしまう。
「ホホホ。待てと言われたから仕方ないですねえ。獣王サン、貴方も『王』を名乗るのであれば、これくらい何とかして頂かないと『獣王』の名が泣きますねえ。」
「フン!お前に言われるまでもないわ!」
ベレスは勇者たちに向き直る。元々魔王から王国侵攻を命じられたのは獣王なのだ。それを獣王は思い出した。
「冥王殿!魔王様との盟約をお忘れか!」
獣魔将ドルボが冥王に抗議する。魔法職を冥王に何とかして欲しいのだが、主君である獣王に言わせるわけにはいかない。魔王を盾に協力を取り付けねばならない。
「ホホホ。仕方ないですねえ。では…
冥府に揺蕩う大いなる力の流れよ。現世に来たりて我が盟友を護れ。
『冥王の護り』!」
冥王は初めからそうするつもりだったかのように詠唱を行い、魔法を発動させる。冥王レベルの術者が詠唱を行うとはいかなる大魔法なのか…。
「これは…。」
獣王が驚きの声を上げる。
「我が軍全員に闇のオーラが…!」
ドルボも同様だ。まさか、獣王軍全体に補助魔法をかけるとは思わなかったからだ。
「ホホホ。30分間の魔法完全無効。これで義理は果たしましたねえ。大賢者は役立たずになりましたねえ。では、大賢者。ワタシとお付き合い頂けると嬉しいですねえ。」
魔法への耐性を上げるのではなく『完全無効』。耳を疑ったが、大賢者の様子を見ると嘘ではないらしい。
「こんなもの!解呪すれば!」
大賢者が解呪に取り掛かろうとする。
「ホホホ。それをワタシが許すと思いましたかぁー!来れ!『冥炎』!」
冥王が大賢者に闇の炎を放つ。
「くっ、『聖盾』!」
大賢者が防御魔法を行使するが、闇の炎が周囲に拡散する。
「ホホホ。ここで魔法の打ち合いをしてもいいのですが…。巻き添えで被害を受けるのはアナタ達ですねえ。上空で一騎討ちと洒落込みましょうか…。」
魔法が効かない獣王軍と効いてしまう王国軍。冥王や大賢者クラスの魔法を撃ち合えば王国軍にだけ被害が出るのは明白だ。
そう言って飛び去る冥王。大賢者も後に続く。
「くそ!しかし、貴様、なぜ自分に『冥王の護り』をかけない?しかも完全無効だと?そんな巫山戯た魔法があってたまるか!」
このような魔法の存在をゼニスは知らない。過去の大戦の記録は全て読んだにも関わらずだ。
「ホホホ。アレは『自分には使えない』『30分間』という制限のもと、完全無効という効果を出すのですよ。」
「それだけではないだろう…!」
それだけではないはずだ。それだけなら自分も使えるはずなのだが、使えるというイメージが湧かない。
「知りたければ、ご自身で魔導の深淵に至ればいいだけですよ!生き残れればの話ですがねえ!」
大賢者と冥王の死闘が始まる。
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