第2章 獣王の郷

プロローグ

第26話 プロローグ 魔族と獣人

 冥王との再戦を獣王ベレスに止められた大賢者ゼニスは、獣王に誘われて酒盛りをする事になった。


 それを聞きつけた獣魔将たちが挨拶にやってくる。

 ゼニスは懐かしい面々に嬉しくなる。


『獣魔将』は獣王軍の幹部連であり、同時に『獣王の郷』の政を担うものたちである。


 "雷獣"ドルボ、"氷蛇"ナーダ、"火猿"カガチ、"風鳥"ガルダ、"岩亀"ゲムブの五名である。


「冥王殿、大賢者殿、ご健勝何よりでございます。」


 五人を代表してドルボが挨拶をする。

 ドルボは貂の獣人で"雷獣"の二つ名を持つ。その二つ名の通り雷の力を操るが、その力は神王ゼウスに由来するものではなく、獣人族始祖神の一柱である麒麟に由来するものだ。


 他の4人の獣魔将たちも青龍、朱雀、白虎、玄武に由来する自然の力を操る。その強さは魔王軍からも一目置かれている。


 ゼニスはドルボたちの後ろに控えている4名に気づいた。

「後ろの4人を紹介してもらっても構わないかのー。」


 ドルボは後ろの4人に目くばせをして、前に出るよう促す。


 魔族の少年と少女、貂の獣人の少女二人が前に出て跪く。

 貂の獣人の少女のうち一人は男装しているが、ゼニスの目は誤魔化せなかった。


「冥王様に置かれてはお久しぶりでございます。大賢者殿に置かれてはお初にお目にかかる。

『覇王グランバーズ』が一孫にして、『小覇王エデルバーズ』が一子、獅子王リオネルでございます。」

『獅子王』を名乗るだけあって筋骨隆々の逞しい少年だ。


「同じく蛇公女ネフェル。」

 狡猾そうな顔をしているが、ゼニスは何処かで見た気がした。学園を退職する前の入学試験の時によく似た顔の少女を見かけた気がする。


「獣魔将"雷獣"ドルボが一子、サルムでございます。」

 執事服に身を包み男装している。名前は男性風だが女性としての名があるのだろう。


「同じくアリアでーす!」

 こちらはメイド服を着ている。ドルボを見ると顔が引き攣っている。


「我が子二人を覇王殿のところに行儀見習いに行かせたのですが…」


 ドルボが口籠る。


「機会があって我が師ドルボと手合わせをしたところ手も足も出ず、修行がてらこちらで世話になっております。」

 リオネルが続く。


「サルムは兄上付き故、きょうだいを離れ離れにするのも悪いと思ってのう。

 妾とアリアもこちらで厄介になっておる。」


「公女さまが公子さまと離れたくないだけじゃないですかー」


「な、何を言っておる!別にそんなこともなくはないが、其方らきょうだいのことも案じてのことじゃ!」


「公女さま、アリア。御前です。お控え下さい。」


 サルムが二人を嗜める。

 この少女たちは、魔族と獣人の垣根を超えて仲が良いようだ。

 リオネルという少年についても、魔族でありながら獣人に師事するなど、以前の魔族では考えられないことだった。


 また、ゼニスは魔族の少年少女が『獣王の郷』にいることを訝しんだが、『覇王グランバーズ』の孫と聞いて納得した。


 覇王と獣王の友好関係のきっかけとなった『獣人族独立戦争』に大賢者ゼニスも関わったのだから…

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