第22話 真実

地上


「神器が獣王から離れました!物理防御の加護が消えました!」

 聖女の声が響き渡る。獣王は冥王を救うべく己が武器を投げ捨てたのだ。この機を逃しては獣王を討ち取ることはできない。勇者たちは一抹の罪悪感を抱きつつ技を放つ。


「十字聖剣!」

 勇者と剣聖の声が響き渡る。獣王に袈裟斬りと左袈裟斬りが襲いかかる。


「なんの!」

 獣王は両腕の籠手で受け止める。物理無効の加護を失った今、獣王の両腕は使い物にならなくなるはずーーだった。しかし、二人の剣は籠手に当たる寸前に戻されたのだ。

 --囮か!次が本命!ここまでか…

 ベレスが覚悟を決めた時だった--


 --ホホホ。そういう場合は肺腑を吸気で満たし、筋骨を締め上げるんですよ。力を抜いて衝撃の方向に飛ぶというのもアリですが、無様に転げ回るのは、ワタシ達『王』の振る舞いではないですねえ。


 いつだったか冥王に言われたことを思い出す。


 --ここで討ち取られてはヤツに笑われるな。少し足掻くとしよう。


 獣王は息を吸い込み、筋肉を体の内側に押し込めるようにしながら力を込める。


「獣破斬!」

「聖光剣!」

 剣聖と勇者の剣が獣王に襲いかかる。獣と魔に属する者にとっては致命の一撃になる攻撃だが、一時的な防御力の向上に成功した獣王を倒すには至らない…。

「グハッ!」

 血を吐きつつも獣王は立ち続ける…。


 ◇◆◇

上空


「『オーディンの槍』が防がれるだと?伝説級の武具でもヒビくらいははいるはずなのに無傷だと?『バイデント』だと?どういうことだ?冥王?」

『オーディンの槍』の点に対する攻撃力は全ての魔法の中でも他に並ぶ魔法はない。故に『オーディンの槍』を受けて無事で済むのは神器、そして神というレベルになる--


「ホホホ。ワタシが隠し持っていたモノを獣王サンにプレゼントしたのですよ。」


 ゼニスはここである事実に到達する。冥王は『冥王を自称する魔族』ではなく、『真なる冥王』、つまり、神であるのだと--

「『バイデント』の持ち主は神王ゼウス、海王ポセイドンの兄、ハ…」

「その名を今のワタシは失っている状態ですので、口に出さないで頂きたいですねえ。」


 --やはり!

『真なる冥王』の名を失わせることのできる者が存在する--サクヌッセンムと太古から争う存在と同一ではないのか…ならば、この争いは…。


「獣王サン!」

 ゼニスが自らが導き出した真実に慄いていると、冥王は地上の獣王の危機に気づき、地上に向かって飛ぶのだった。


 地上

「獣王!お前の最期だ!精霊弓!」

 英雄アイヴァンの矢は必中。これで勝負は決まるはずだ。


「そうはさせませんよおおおぉぉぉ!」

 ドン!

「グハッ!」

 冥王が現れ代わりに矢を受けたのだ。


「何!冥王?」

 勇者は信じられないものを見た。獣王に命を救われた冥王が捨て身で獣王を救ったのだ。


「ホホホ。獣王サン、ご無事のようですねえ。」


「何故だ!何故そこまで…!」


 魔王軍において、「獣人の首領」という扱いだった獣王に『王たる者の矜持』についてうるさく思うほど話してきた。

 その結果、獣王を「獣人の首領」と表立って軽んじる者は少なくなっていった。


 冥王が獣王を『王』と扱う以上、冥王と戦ってただでは済まない者たちは獣王を軽んじることが出来なくなったのだ。


 今回の戦いは獣王軍単独での侵攻となったため、魔法耐性の低い獣王軍は多大な犠牲を払う事が予想された。立案者の悪意が透けて見える計画だった。

 そこに冥王が「大賢者から冥王の剣を奪還する」ことを理由に同行した。


 そのため、獣王軍の損害は少ないものになっている…。どうしてそんなに自分に肩入れするのか、獣王には分からなかった。

 しかも、瀕死の状態で更に自分を庇うなど…

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