第23話 戴冠、そして終戦
オリュンポス
「我ら『真なる王』の名において、獣王ベレスを新たなる『王』として認める!」
神王ゼウスが宣言を下す。
「地水火風雷の神々の末裔たる獣の祖霊たちよ!眠れしその力を顕し、神々の座に復帰せよ!」
海王ポセイドンが獣の祖霊たちに命じる。
「獣人族よ!その長たる獣王よ!その誇りの通り勇猛たれ!」
「己を律し、正しく力を高めんことを!」
「己が意志を顕し、後々に語られる物語を紡がんことを!」
「その力に驕らず、以って世界の均衡の礎たれ!」
「苦難に打ち克ち、新たな歴史を歩まんことを!」
魔王、黄金龍、邪悪龍、妖精王、冥女王が獣王と獣人族を祝福する。
こうして、獣王の『戴冠』がなされたのだ…
◇◆◇
地上
--同胞のためにもがいているのを見て、放って置けなくなったんですよねえ。
「ホホホ。ワタシがいながらアナタを死なせるのは『冥王の沽券』に関わるのです…よ。」
相変わらずの言い草に、この男を死なせたくないとベレスは思った。
その時だった。
獣王軍の上空に五つの存在が顕れた。
「何?!あれは、青龍、朱雀、白虎、玄武、麒麟!神話の時代に神王たちに駆逐された者たちではないか!」
ゼニスは驚愕に目を見開く。
青龍、朱雀、白虎、玄武、麒麟は水火風地雷の五元素を司る自然神だったが、神王たちに敗れ、精霊となり獣人たちの祖となった。
--太古の昔に失った神格を取り戻したというのか?このタイミングで?
ベレスたち獣人族一人一人の体の奥底から力が湧いてくる。斃れたはずの獣人たちが立ち上がる。それだけではない。何か大きな力が獣王、そして獣王軍全体に注がれる。
そして、五つの存在は消えていった。
しかし、ベレスはそれどころではなかった。
「バカな!冥王!ぬおおぉぉぉぉ!『バイデント』!我が手にもどれ!『獣王爆壁衝』!」
何故か『バイデント』が自分の手に戻ってくる事が分かっていた。いかな伝説の武具と言えど持ち主の声に応えて飛んでくるという事はないというのに。
『うわわわあああー!』
勇者たちそして兵士たちが爆風に吹き飛ばされる。ゼニスは慌てて防御魔法を唱える。
「『風の護り』!」
「冥王様ぁぁぁ!傷をお見せ下さい!わずかに急所を逸れています!今すぐ回復を図れば助かります!」
冥王配下のスケルトンが現れ、冥王の傷を見る。申し訳程度に被っている兜から冥王に光が放たれ矢が消える。
「本当か!」
獣王にとって戦の勝敗よりも大事なものがそこにあった。
「ぐっ、それを許すと思っているのか!」
勇者が叫ぶ。冥王と獣王。魔王軍において『王』を冠する存在を討つことの戦略的意味を考えると、冥王の回復を待つわけにはいかない。
「待て!」
ゼニスは勇者たちを止める。ゼニスはこれ以上戦う意味を見出せず、更に戦いを継続した場合の途方もない損害に気が遠くなる。
「大賢者殿?獣王と冥王を討つ機会なのですよ?」
「これを逃したら…次は…」
しかし、『バイデント』が獣王の手に戻っている。『物理完全無効』の加護が復活しているはずだ。
獣王軍に降り注いだ力ーー獣王が『獣の祖霊』いや、神格を取り戻した自然神たちにより、『真なる王』として戴冠したのではないかーー
『真なる王』とは、魔王と同等の存在であることを考えると、事前の準備なしに戦ってはならない相手…。
それに対して自分たちは消耗している。この状態で獣王と冥王を討ち、獣王軍を掃討できるとは思えない--
「獣王。今すぐ軍を引け。そして一年間軍を動かすな。それが条件だ。」
ゼニスは獣王に告げる。
「そんなことを勝手に決めては大賢者様のお立場が…。」
確かに一時的に立場が悪くなるだろうが、彼らを討ちたくない思いと、討つことが困難であること、魔王軍本体との戦いを考えると、これ以上の選択を考えられなかった。
「あんなものを見せつけられてとどめを刺そうするなら、どっちが魔族か分からなくなるぞ。それは人を捨てることになるぞ。」
そう答えた。
「……感謝する。」
このまま戦いを継続した場合、勇者たちを蹴散らすことができても冥王がどうなるか分からない。大賢者の提案に乗らないという選択肢はなかった。
「全軍停止!」
獣王の意を汲んだ獣魔将"雷獣"ドルボが停止を命じる。ドルボにとって、身を挺して己が主人を守った冥王を救うために戦いを終わらせることに異論は無かった。
更に己が主人が『真なる王』として戴冠したことを本能で理解した。そして、自らもその二つ名の通り、雷の力を得たこと知った。
また、緒戦で圧倒的な武威を示した以上、獣人族としてこの戦場に求めるものは何もなかった。
「全軍止まれええ!」
続いて大賢者が号令をかけ、両軍の動きが止まる。
「獣王軍、これより帰還する!帰還まで反撃以外を禁ずる!」
「王国軍、獣王軍への手出し無用!手出しした者は軍法により罰する!」
こうして獣王軍との戦いは終わったのだった--
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