第10話 冥王の影
10月12日午後王都会議室。
王国は、大賢者ゼニスの指導の下、魔王軍との戦いの中で迅速な通信網を構築していた。
それは、①篝火・早馬といった古典的なものに加え、②魔法による連絡方法だ。
この三通りの連絡手段を駆使することで迅速かつ確実に連絡がなされるはずだったのだが…
王国は、獣王軍による国境付近の辺境伯領を撃破されてもなお、その情報を掴めなかったのだ…。
更に、各地の守備隊は獣王の圧倒的な武威を見せつけられ敗走。意外なことに死者は少なく、獣王は逃げる者を追わないため、避難民も無事王都へと辿り着いた。しかし、今度は大量に抱えた避難民が王都の備蓄を削り始める。
民が無事なのは良いが、戦いを好む獣王軍らしからぬ振る舞い、そして情報の遮断という搦め手を用いるやり方に大賢者ゼニスは一つの結論に至った。
--冥王…彼奴がこの侵攻に関わっている…!そして、それが深刻な事態を引き起こしている…!
「民や兵を王都へと逃すことでこちら側の備蓄を削るという策略だ。」
ゼニスは会議室に集まった国王及び重臣、勇者とその仲間たち、そして自身の仲間たちに告げる。
「そんなバカな!力を振るうことを好む獣人たちがそんな策を用いるとは…!」
大賢者ゼニスの発言に驚き、勇者が答える。
「大賢者様のおっしゃる通りかと。無傷で逃げ出した部隊もあったとか。獣王の振るう力があまりに大きく、抵抗する気が完全に消えてしまったようです。獣王は抵抗する気が失せた守備隊を【住民を伴うこと】を条件として見逃しています。守備隊の罪悪感を利用した策略と言えるでしょう。」
と聖女が同調する。
「獣王にそんな策略を吹き込んだのは…。」
と剣聖が問う。
「冥王でしょうね。大賢者様を付け狙う冥王が今回の侵攻に参加しない訳がない。」
と英雄アイヴァン。
「獣王自身も策略と気づかずに受け入れたのだろう。彼奴自身は無抵抗の者を斬るようなことを好まんからな。」
大賢者ゼニスは複雑な気持ちになる。戦で人が死ぬことはない方がいい。しかし、死なないことで王都の備蓄は急速に減り始めている。各地から送るよう手配したが、獣王軍の別働隊による妨害を受け、通常より到着が遅れている。
「このままですと、獣王の侵攻ルート上の都市・村落の避難民が王都に集まり、食糧がなくなります。早急に獣王軍を撃退しなければなりません。」
と大臣が言う。
小麦の刈り入れ直後のタイミングで獣王軍は侵攻してきた。そして、その小麦は王都に輸送されていない…。
「では、勇者よ。大賢者と共に軍を率いて獣王軍を討て。」
と王命が下る。
編成は魔法を使える者の割合が多いのだろう。獣王軍との衝突に備え、冒険者組合を通じて魔法職の募集を大々的に行なったのだ。魔法を使える者が少なく、魔法耐性が低い獣王軍に対する対処としては間違えてはいない。冥王が獣王軍に参加したとしても、どうすることもできないだろう。
しかし、ゼニスには何か大きな落とし穴があるようにしか思えなかったのだ…
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