第3話 プロローグ③ 邂逅

王都上空。

『冥王の剣』を託された少年を乗せた馬車が見える。王都の様子から、今日は学園の卒業式で少年はそこを卒業したように思われる。


「ホホホ。未来への希望を胸に死す。オツなものですねえ。」

少年が駆る馬車を見て思ってもいないことを口走る。まるで誰かを煽るように。冥王の脳裏には喜ばしい想像で埋め尽くされる。


「それを人は外道と言うのじゃよ。」

冥王の気配を察知して大賢者ゼニスが冥王の前に立ち塞がる。


想像通りの者がやって来た。ただの少年を殺すなど『冥王の沽券』に関わるのだ。冥王が戦うなら、相手は相応の者でなければならないのだ。


「ホホホ。くたばりぞこないの老ぼれめ。これでも如何ですか?」

歓喜に震えながら冥王は魔力を放つ。


「くたばりぞこないはオヌシも同じじゃろ!」

大賢者も同じように魔力を放つ。


ちゅど!


魔法として構成されずに放たれた魔力は間抜けな音を立てて爆風を放つ。冥王の頬にかすり傷がつく。大賢者は無傷だ。


「ホホホ。魔力は互角ですが…」

好敵手が衰えていないことが分かり、更なる喜びに包まれる。戦うのであれば実力は互角でなければ面白くない。


「技術はワシの方が上じゃの。」

大賢者が眼光鋭く返す。大賢者と冥王の幾多の戦いを経て分かっているのは、魔力を練る技術は大賢者が優れ、魔力量では冥王が優れているという事だ。先の大戦では大賢者は冥王に勝つことはできたが、今回も勝てるとは限らない。


「ホホホ。手傷を負ってしまいましたねえ。これは退かざるを得ないですねえ。」

冥王はそう言い捨て消える。ここで決着をつけるというのは無粋に思える。この楽しみをできるだけ享受したいのだ。


「消えおったか…。相変わらず腹が読めん奴じゃ。」

いや、冥王の腹は読めないことはない。冥王は自分との戦いを楽しんでいる。本来の目的である『冥王の剣』の奪還など構わなくなるほどに。

それが嫌というほど分かっているから、ゼニスは冥王が考えていることを分からないと思いたくなるのだった--。

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