第4話 プロローグ④ 見解の一致
一月後、エリク家領上空。
『冥王の剣』を大賢者から託された少年モーブは、エリク家の領地へと馬車を進めていた。仲間の少女の一人が地方貴族のエリク家の者のようだ。
王都上空で大賢者との邂逅を果たした後、冥王は特に何もしてはいない。
魔王に対しては二つ前の大戦で勇者に滅ぼされたと言われる『冥魔将』と冥王麾下『ノーライフ・ソルジャーズ』復活のための呪法を行なっていると伝えている。真実ではないのだが、全てが嘘という訳でもない。その一月の間に、『冥魔将』に関することで抱えた約束事、新たなる『盟約の子』にどう保護すべきか検討していた。
新たなる『盟約の子』--アーシェという少女--の親族関係を知った冥王は、冥府の調査官に彼女についての報告書の作成を命じ、提出された報告書を見て、頭を抱えることになったためである。
『盟約の子』についての方針も決まったので、冥王は、『冥王の剣』の奪還を果たすべくエリク家領に赴いたのだ。
『冥王の剣』を持つ少年の様子を冥王は上空から見下ろしていた。
「ホホホ。『もう一つの可能性』、そして我が『冥王の剣』を受け継ぐ者…。」
好敵手を待ちながら冥王は独り言を吐く。
「冥王。貴様、性懲りもなくモーブを…!」
冥王の気配を察知し大賢者ゼニスが姿を現す。
ただ、冥王としては大賢者と戦う気は失せてしまった。地上では少年と少女たちが身を寄せ合い睦み始めたからである。
◇◆◇
「ねえモーブぅ……」
「キス……して」
「モーブ……好き……」
「……」
「わたくしも……勇気づけて……」
「……すて……き」
◇◆◇
「ホホホ。ワタシも今仕掛けるほどヤボではないですよ。出直さなければなりませんが…。もう少し眺めていたいですねえ。」
このような時に邪魔をするような趣味を冥王は持ち合わせてはいない。それと冥王は大賢者がこのようなものを見るのが好きだということに気づいていた。
「そこは見解が一致するのう。まさかこんな日が来るとは思わなかったのう。どういう風の吹き回しじゃ?」
不思議そうに問う大賢者。それはそうだろう。前の大戦時、冥王はしつこく大賢者を付け狙ったのだから。
「ホホホ。生まれ出る者がいなければ、死せる者もいなくなりますからねえ。だからワタシはああいった事は歓迎なのですよ。」
冥王の本来の役目は冥界と死者の統括である。生者はいずれ死者となり、死者は然るべきときに転生する。この流れに横槍を入れるべきではないと冥王は考えている。
「なるほどのう。死者がいなければ冥王も形無しじゃのう。」
「ホホホ。まあ、昔話でもしながら見守りましょうかねえ。」
何度も鎬を削った相手と話すこともまた一興。
「今日のところはそうしようかのー。」
話題は自然と数十年前へと遡る---
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