前大戦の物語 決戦前

第5話 獣王ベレス

四十数年前…魔王城


王国攻略を命じられた獣王ベレスは暗澹たる気持ちで控えの間へ戻り、この件を配下たちに知らせるために歩を進めた。

これから仲間たちを死地に送らざるを得ないことに胸が締めつけられるような気持ちになる。


獣人は生命力、攻撃力、物理防御力に優れるが、魔法防御力が低い者が多い。

その自分たちが大賢者ゼニス率いる王国軍と戦うとなると、壊滅に近い打撃を受けるだろう。

それでもなお…魔族の奴隷となっている同胞たちを解放するには、この命を受けるほかなかったのだ…。


「ヒヒャヒャヒャ!獣人の長殿!」

ベレスに声をかけたのは、魔王直属の将の一人、ザール。

ベレスを王とは認めず、『獣人の長』として扱っている。

このような者は魔族に多いため、ベレスはいちいち反応するのに飽きている。


「ザール殿。健勝そうで何より。」

ベレスは無難に返す。


「長殿!長殿の活躍に花を添えようと一計を思いつきましてなあ!此度の出陣を人間どもに大々的に広げることに致しましたよ!ヒヒャヒャヒャ!」


「何だと?」


「もう既に配下に命じ、長殿の出陣を人間どもに触れて回っておるところですぞ!ヒヒャヒャヒャ!」


「この…っ!」

ベレスは怒りで目の前が真っ暗になる。食糧、装備の調達など、どんなに急いでもひと月はかかる。こちらが獣人のみの編成と知られれば人間たちは魔導士中心の編成を行い、魔法防御に難点がある獣王軍は一人として帰還できないことになるだろう。


--そこまでして俺たちを…!

ベレスは怒りのまま、目の前の魔族を叩き潰す決意をしたその時だった。


「ホホホ。ワタシがしようとしていた事をやって頂き、ご苦労様ですねえ。」


黒衣の男--冥王が現れたのだった…。

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