第6話 冥王の参戦

「め、冥王様…!」

ザールが動揺する。軍機を漏らしたことを揶揄されたと受け止めたからだ。


「冥王!貴様がやろうとしていたとは、どういう事だ!」

ベレスは怒りを露わに冥王に問う。


「ホホホ。情報の撹乱は基本ですからねえ。犠牲を最小限にするためには必須なんですよねえ。それを先んじてやって頂けるとは…流石はザールさんですねえ。」


「はあ……。」

「冥王、どういう事だ…?」

冥王が何を言っているか分からず、二人は反応に困ってしまう。


「ホホホ。ワタシも王国攻略に参加するのですよ。大賢者が出る以上、ワタシが出ないワケにはいきませんからねえ。」


--そんな事聞いていないぞ!

ザールは動揺する。


「ホホホ。獣王サンが出陣すると小耳に挟みましてねえ。獣王軍の皆さんに王国軍を抑えて頂いて、ワタシは大賢者を頂こうと魔王サンにお話ししたところ了承頂けた、というワケなんですよねえ。」


「お前も参加するというのか!」

ベレスは驚愕に目を見開く。冥王と魔王の関係は不思議な関係だ。魔王を頂点とする魔王軍にあって、魔王に対し、遠慮ない言動をとっている。

他の者が冥王と同じことをすれば、その場で魔王によって命を奪われるだろう。


「ホホホ。獣王サンも人が悪いですねえ。大賢者を美味しく頂くのは、このワタシと決まっているのですよ。いかに獣王サンと言えども、これは譲れないですねえ。

故に、魔王サンにお願いして、ワタシも混ぜて頂くコトにしたのですよ。」


--こ、この男がいれば俺たちは…!

ベレスは希望の光を見た気持ちになる。


「ホホホ。そういうワケで、ザールさんが編成について人間どもに触れて回って頂けて、手間が省けたというコトなんですよねえ。

ワタシが参加しないというニセ情報をねえ!」


--み、見破られている…この件にこれ以上関われば命に関わる…。

ザールは、これ以上余計なことをするな、という冥王の警告であると解釈した。

そもそも、冥王が参加する戦いに横槍を入れるなどという真似をするつもりはない。


「ホホホ。ザールさん、いい心がけですねえ。それと一つ、確認したいことがあるのですが…」


「は!何でしょうか、冥王様!」


「先ほど、獣王サンのことを『獣人族の長』と呼んでいたのは、どういう趣旨なのかと思いましてねえ。」


「は!たかだか獣人ごときが『王』などとは烏滸がましいにも程があります!」


「ホホホ。面白いことを言いますねえ。それは…彼を『獣王』と呼ぶワタシに異を唱えるということなんですかねえ。」


「い、いえ!決してそんなことは!」


「そうですか…どうしてもワタシに異を唱えたければ、ワタシに力を示して頂ければ宜しいんですがねえ!!」


魔王軍の規律は力である。このため、ザールが冥王に物申したければ、冥王に自身の力を認めさせなければならない…。

そして、ザールは冥王から発せられるオーラに圧倒されており、それは叶わないだろう。


「そ、それでは、冥王様、獣王様、私はこれにて失礼致します。」


ザールはそう言って立ち去るのが精一杯だった…。

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