第34話 何かを受信?『シュモの花』
ロジエの話によると、最近になって何者かに森を荒らされているのだという。最初は動物の
《この辺りの
「なるほど……。そういうことだったのね……」
ナチュラさんは考え込みながらつぶやく。私は不安になりながら口を開いた。
「その……犯人に心当たりはないんですか?」
《それが……我にもわからんのだ……》
「そう、ですか……」
私は落胆した気持ちで
(やっぱり、そう簡単に犯人は見つからないか……)
「フタバちゃん、ユグちゃん。残念だけど、一度戻りましょうか……」
ナチュラさんが私たちの肩に手を置きながら言う。私は悔しさを
「はい……」
「うん……」
そうして私たちは、オリジンの森を後にしようとしたのだが……
(……?)
後方に視線を感じ、振り返る。すると、木陰から小さな男の子がじっとこちらを見ていた。
「あっ……」
「……? どうかした?」
立ち止まった私を見て、ナチュラさんが首を傾げる。私は慌てて首を振って答えた。
「いえ、何でもないです!」
それから、ナチュラさんと一緒に歩き出す。すると、少年はどこかへ走り去ってしまった。
(あの男の子、どこかで見たような気がするんだけど……)
私は記憶を
「……まぁ、いいか」
私は小さく呟いて、考えることをやめにする。それから、ナチュラさんとユグに続いて、森を出たのであった。
◆◆◆
「ふぅ……」
私はベッドに寝転がりながら、ぼんやりと天井を眺めていた。
あの後、私たちは森を出て、研究所に戻ってきた。そして、今に至るというわけだ。
(結局、手がかりは見つからなかった……)
私は深いため息を吐いた。ボヤの原因はロジエの花だとわかったものの、別に犯人がいることがわかっただけだ。
(それにしても……さっきの子は一体……?)
帰り
「うーん……」
私は寝返りを打ちながら考え続ける。
(誰かに似てたような……。うぅん……わからないや……)
私は思考を放棄して目を閉じる。そしてそのまま、眠気に身を任せることにしたのだった。
◆◆◆
翌朝。
「お姉ちゃん! 起きて! 朝だよ!」
ユグの元気な声で目が覚める。私は伸びをしながら体を起こした。
「ん〜……おはよう」
「うん! おはよ!」
私とユグが挨拶を交わしていると、ナチュラさんが微笑みながら部屋に入ってきた。
「2人とも、今日は早いのね」
「ナチュラさん、おはようございます」
「フフッ、おはよう」
ナチュラさんは笑顔で答える。すると、ユグが私の
「ねぇねぇ! お姉ちゃん! 早くご飯食べようよ!」
「そうだね! 行こう!」
私は立ち上がると、リビングに向かった。
◆◆◆
朝食を食べ終わり、ソファで休んでいると、ナチュラさんが話しかけてきた。
「フタバちゃん、ちょっといいかしら?」
「はい、大丈夫ですよ」
私は笑顔で答え、ナチュラさんの向かい側に座る。すると、ナチュラさんは真剣な表情で口を開いた。
「昨日、いろいろと調べてみて思い付いたのだけど……。魔法植物たちに聞いてみるのが一番早いんじゃないかと思ったのよ」
「魔法植物に……?」
ナチュラさん曰く、ロジエに聞いたように魔法植物たちの力を借りれば、犯人もすぐに見つかるのではないかということらしい。
「なるほど……。確かに、その通りかもしれませんね」
「ええ。『
「わかりました!」
「はーい!」
私たちは力強くうなずく。すると、ナチュラさんはユグの方を向いてから、私に尋ねた。
「ユグちゃんには、私がついて行くわ。それで、フタバちゃんは……」
「私一人で大丈夫です!」
「……フタバちゃんなら大丈夫だと思うけど、くれぐれも気をつけてね」
「はい!」
私はグッと拳を握って返事をする。すると、ユグもやる気に満ちた表情を浮かべていた。
「よーし! がんばるぞー!!」
ユグは腕を振り上げて叫ぶ。私は思わず苦笑いを浮かべたのだった。
◆◆◆
私はユグとナチュラさんと別れると、早速、情報収集という名の調査に繰り出した。まずは、オリジンの森に向かうことにした。
(確か、『シュモの花』だったよね……)
図鑑で見た花の特徴を思い出しながら、森を歩いていく。
『シュモの花』は、コスモスに似た外見を持つ魔法植物だ。記載されていた情報によると、まるで何かを受信しているかのように揺れ動くのが特徴なのだとか……。
しばらく歩くと、目的地である花畑に到着した。
(ここが……シュモの花園……)
目の前に広がる光景に圧倒される。そこには、白やピンク、オレンジなど色とりどりの美しい花々が咲き誇っていた。中には水色や黄緑など、コスモスには無い色のものまである。
シュモの花たちは、風も無いのにゆらり、ゆらりと静かに揺らめいている。私はしばらく見惚れていたが、ハッと我に返ると、花に向かって話し掛けた。
「あの! すみません! 少しお話を伺ってもよろしいですか?」
──《……ン? あア、人間カ》
《人間、何シに来タ?》
まるでロボットか何かのように、無機質で淡々とした声が響く。私は一瞬戸惑ったが、何とか言葉を返した。
「あ、えっと……。実は、この森を荒らした人について知りたいんです。心当たりはありませんか?」
私がそう尋ねると、シュモたちはざわめき始めた。
《荒らス人間? 知ってルか?》
《知らナイ》
《ムムム……》
「そ、そうですか……」
私はガックリと肩を落とす。だが、諦めずに質問を続けた。
「えっと……。じゃあ、最近になって森に来た人はいますか?」
《最近……?》
《……ンン……》
《……わかラなイ》
「そうですか……。ありがとうございました……」
私は礼を言うと、その場を離れようとした。しかし、背後で声が聞こえて足を止める。
《待テ》
「……はい」
《……予知、スル》
「え……?」
シュモの思わぬ言葉に、私は困惑する。すると、1輪のシュモが私に語りかけた。
《……ワレハ、未来ヲ視るコトが出来ルんダ》
「それは……どういう意味なんでしょうか?」
《ワレノ能力にヨリ、こレから起こルコトを予測すルことガ出来ルんダ》
「なるほど……。つまり、これから起こることを予言できるということですね?」
《ソウいウことだ》
シュモの言葉を聞いて、私は考え込む。
(もし、本当に予知ができるなら、ここに来るかもしれない犯人のことを、事前に知ることが出来るかも……)
私は期待を込めて尋ねた。
「教えてください! お願いします!」
《……ワかッタ》
《……》
シュモたちは再び揺れ始めた。どうやら、こうして未来で起こることを受信しているようだ。しばらくして、そのうちの1輪が動きを止めた。
《……人間ガ、ココに来ル》
「人間……?」
私は首を傾げる。すると、別のシュモが声をあげた。
《……ソシテ、ソノ人間は……オ前だっタ》
「…………はい?」
私はポカンとした顔で固まる。
(……いやいやいや、それは今の状況じゃ……)
《……違ウ。子どもダ》
《イイヤ、女だっタ》
《ンン……?》
シュモたちはそれぞれ議論し始める。私は呆然としながら、その様子を眺めていた。
(うぅん……? これは一体……?)
私は頭を悩ませるが、何も答えが出てこない。
「あの……。その予知って、どのくらいの確率で当たるものなんですか?」
私は恐る恐る尋ねてみた。すると、シュモはピタリと動きを止めて答えた。
《……50%くらイ?》
「えぇ……!?」
(そんな低いの……?)
私は頭を抱えたくなったが、どうにか
《60%くラいあルだロウ》
《ソんナに高いカ?》
《ワかラん……40%クらいカモしれナい》
「…………」
私は黙って考え込んだ。
そもそも、100%じゃない時点であまり当てにならないような気がするが、それについては言わないでおく。
(う~ん……? でも、一応覚えておくことにしようかな……)
私は小さくため息を吐いて、その場を後にしたのだった───。
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