第40話 光を力に!『ルベルの花』

「あった!」


「すごい、こんなにたくさん……」


 しばらく歩いていると、私たちはついに目的の花を発見した。細い茎に、白い小さな花がいくつもついており、風に揺られている。


「綺麗だね……」


「うん……」


 私たちは感嘆の声を上げた後、早速花を摘もうとした。だが、ルベルたちに許可をとってからの方がよいだろうと思い、ひとまず話かけることにした。


「こんにちは!」


 私が挨拶すると、ルベルたちは驚いたように花を揺らした。だが、すぐに警戒心を解いたようで、ゆったりと葉を動かした。


《こんにちは~。人間のお嬢さん。私たちに何か用ですか~?》


 ルベルは穏やかな声で聞いてくる。


「あの……あなたたちには、光の魔力があると聞いたんですけど……?」


《あら~……どうしてそのことを知っているの~?》


「それは……」


 私はこれまでの経緯を簡単に説明することにした。


「……というわけなんです」


 ルベルは私の説明を聞き終わると、ゆっくりと揺れた。


《そう……そんなことが……。わかったわ~。でも……私たちの魔力は、あまり強くないのよ~……》


「そうなんですか?」


 私は意外に思い、聞き返す。すると、ルベルは申し訳なさそうに答えてくれた。


《ええ……。その『裏世界樹』さんを浄化するには、相当な魔力が必要なはずよ……》


「そうですか……」


 私は残念に思い、うつむく。すると、ルベルは続けて言った。


《でもね……私たちにできることは少ないかもしれないけれど、協力させて~!》


「ルベルさん……」


 私はルベルの申し出に感動したが、ふとある疑問が浮かぶ。


「あの、どうやって協力してくれるんですか?」


 私の質問に、ルベルは楽しげに花を揺らす。


《ふふふ~。いいところに気付いたわね。私たちはね、花から光の力を分け与えることができるのよ~》


「ええ!? それって……」


「すごい!」


 私は驚いてカゲと顔を見合わせた。すると、ルベルはさらに詳しく教えてくれる。


《ただね~……。私たちは力を与えすぎると枯れてしまうから、少しずつしかできないんだけどね~。それでも、少しでも助けになれるといいのだけれど~……》


「いえ! すごく心強いです!」


 私は感謝の気持ちを込めて礼を言う。


「早速お願いできますか?」


《いいわよ~。じゃあ、そっちの子からでいいかしら~?》


「はい!」


 カゲは返事をすると、ルベルの前に立った。


《じゃあ、手を出してちょうだい~。そうしたら目を閉じて……そう……ゆっくり息をして……リラックスして……》


 ルベルの指示通りカゲが目を閉じると、淡い光がカゲの周りを取り囲み始めた。その様子は神秘的でとても美しいものだった。

 しばらくして、ルベルが声をかける。


《はい、もう大丈夫よ~》


「……なんか、力がわいてきた気がする」


 カゲは目を開けた後、不思議そうに自分の体を見た。


《次はあなたの番ね。こっちに来てくれる?》


「はい!」


 今度は私がルベルの前に立つ。


《さあ、目をつむって……》


「わかりました!」


 私はワクワクしながら、指示に従う。


《そう……そして、息を大きく吸って……吐いて……》


 ルベルに言われるがまま深呼吸を繰り返すと、体がポカポカと温かくなってきた。


《はい、もういいわよ~》


「なんだか、不思議な感じですね……」


 私は呟きながら、自分の両手を見つめる。


《ふふ、これで光の魔力が宿ったと思うわ~。でも、一時的なものだから、大切に使ってね~。うまくいくことを祈ってるわ~》


「はい!ありがとうございました!」


 ゆったりと揺れるルベルに、私は深くお辞儀をした。


《いいのよ~。また困ったことがあれば、いつでも来てね~》


「はい! では失礼します!」


 こうして、私とカゲは無事に光の魔力を手に入れたのだった。



◆◆◆



 研究所まで戻ると、ちょうどナチュラさんたちが戻ってきたところだった。心なしか、2人の顔色は良いように見える。


「あら、フタバちゃんたち! お帰りなさい!」


「はい! ただいま戻りました!」


 私は元気よく答える。すると、ユグが駆け寄ってきた。


「お姉ちゃん! ルベルのお花、見つかった?」


「うん! バッチリだよ!」


「ほんと!? やったね! わたしたちも、見つけたんだよ! ほら!」


 ユグは興奮気味に言うと、リュックの中から白い花の束を取り出した。

 どうやら、2人もルベルの花を見つけられたようだ。


「あれ?光の魔力は、分けてもらわなかったの?」


「わけて……? そんなちからがあったの?」


 疑問に思ったことを尋ねると、ユグは首を傾げた。どうやら知らなかったらしい。


「うん。それでね、ルベルの花が力を貸してくれて……それで……」


 簡単に説明すると、ユグは興味津々といった様子で耳を傾けていた。


「へぇ〜。ルベルのお花は、そんなこともできるんだ〜」


「私たちも、詳しく聞けば良かったわね……」


 少し残念そうに言うナチュラさんを見て、私は慌てて口を開く。


「あっ! でも、花自体に光の魔力が宿っているらしいので、大丈夫だと思います!」


「そうなのね。ありがとう、フタバちゃん」


 ナチュラさんの笑顔にほっとしていると、研究所の扉が開いた。どうやらオリバーさんたちも戻ってきたらしい。


「いや~……見つからないものだね……」


「うちの国でも、ダメでした……」


「フタバちゃん、すまん! 俺たちがついていながら、こんな結果になってしまって……」


 オリバーさんとクレアさんが肩を落としている横で、ジェイクさんが頭を下げてくる。そんな彼らに、私は急いで言った。


「いえ、気にしないでください! お気持ちだけでも嬉しいですから……。それにルベルの花は、こっちで見つけられたので!」


「本当か!?」


「はい! このとおり……」


 私はルベルの花を見せる。すると、彼らは安心したように笑みを浮かべた。


「よかった……。さすが、フタバさんだね」


 オリバーさんの言葉に、私は苦笑いする。


「いえ……私たちは、ドトリの木たちに教えてもらったので……」


「そうだったのか!」


「『植物対話プランツ・ダイアログ』の能力は、やはりすごいですね……!」


 ジェイクさんとクレアさんは感嘆の声を上げる。


「フフッ……それもあるけど、前にフタバちゃんが助けてあげたから、ドトリは応えてくれたのよ」


「えっ?」


 ナチュラさんの言葉に、私は驚く。すると、彼女は優しい口調で言った。


「ドトリはね、きっとフタバちゃんに感謝しているのよ。だから、自分たちのために頑張ってくれる姿を見て、力を貸そうと思ったんじゃないかしら」


「お姉ちゃんは、やさしいもん!」


「ナチュラさん……ユグ……」


 私は胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。同時に、嬉しさが込み上げてくる。


「……お姉さんは、すごいね。おれは……」


 ふと、カゲの呟くような声が聞こえてきた。私は彼の方を見る。

 カゲは何かを考えているようだったが、すぐに顔を上げて言った。


「おれも、もっと頑張るよ」


「うん……!」


 私は微笑んで返事をする。すると、カゲは照れ臭そうに頬をいた。


「さて、光の魔力も手に入ったことだし……早速、裏世界樹の浄化に向かいましょうか!」


「はい!」


「うん!」


 ナチュラさんが明るい声で宣言する。

 私たちは力強くうなずいたのであった───。

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