第25話 その実はまるで爆弾!?『カスタの木』

 結果から言うと、コトンの繊維で作った服を着ても、浮かぶことはなかった。

 花を採ってきた翌日、私たちはナチュラさんの魔法の力を借りながら服を織った。そして着てみたのだが、身体が浮かび上がることはなかったのだ。


「浮かべなかった……」


 私の呟きに、ナチュラさんは苦笑した。


「そう簡単にはいかないわねぇ」


「そう……ですね……」


 私はガックリとうなだれた。しかし、ナチュラさんは明るい声で言う。


「でも、浮力があるっていう記述は本当だったみたいね」


「えっ?そうなんですか……?」


 私は驚いて聞き返した。すると、ナチュラさんは微笑んで言う。


「ええ。いつもより、気分が軽いもの」


「確かに……。言われてみれば……」


 私は納得した。コトンの繊維で織った服には、気分を『浮わつかせる』効果があるらしい。そのためか、ユグも普段よりもテンションが高くなっていた。


「すごいね!フワフワしてる!」


「そうね……。これは、良い発見ができたかもしれないわ……」


 ナチュラさんは満足げに言った。私も嬉しくなる。


(浮かべないのは残念だったけど、収穫もあったし良しとしよう!)


 私はそう思い直すと、コトンの繊維で出来た服を大事にしまうのだった。



◆◆◆



 それから数日が経った。私は相変わらず、魔法植物の調査をしている。そんな中、ナチュラさんが私に問いかけてきた。


「フタバちゃん、少し相談したいことがあるんだけど……」


「何ですか?」


「ここから少し離れた所に『カスタ』と呼ばれる木があるのだけど……」


 ナチュラさんの話によると、『カスタの木』とは炎の魔力のこもった実をつける木のことだそうだ。図鑑で見たところ、その実はクリの実によく似ていた。


「それがどうかしました?」


「ええ……。実は最近、そのカスタの木の様子がおかしいみたいなのよ」


「何かあったんですか?」


 私は不安になって聞いた。すると、ナチュラさんは首を横に振る。


「いえ……。まだ、はっきりとしたことはわかっていないの……。ただ気になるのは、カスタの木々が枯れ始めているということよ」


「それは大変じゃないですか……!」


 私は驚きの声を上げる。すると、ナチュラさんは真剣な表情で答えた。


「ええ……。だから、一度様子を見に行きたいと思っているの」


「わかりました……。私も行きます!」


 私は即座に返事をする。すると、ナチュラさんは微笑んで言った。


「ありがとう。フタバちゃんが来てくれるなら心強いわ」


「任せてください……!」


 私は力強くうなずいた。



◆◆◆



 私たちは準備を整え、目的地へと向かった。場所は、オリジンの森の入り口付近である。


(確かこの辺りだよね……?)


 地図を確認しつつ歩いていると、ユグが服の裾を引っ張ってきた。


「お姉ちゃん!あれ見て!」


「えっ?……あっ!」


 私は目を見開いた。そこには、一本の大きな木が立っていたからだ。


「これが……カスタの木……?」


「ええ。間違いないはずよ」


 ナチュラさんが言う。私は恐る恐る近づいてみた。すると……


──《……ッ!曲者くせもの!》


 突然、そんな声が聞こえてきた。同時に、どこからともなく何かが飛んでくる。


「きゃあっ!?」


 私はそれを慌てて避ける。落ちた場所を見ると、そこにはクリの実のようなものが転がっていた。


「これって……?」


 拾い上げようと近づくと、その実は急激に赤く光り始めた。


「危ない!」


「フタバお姉ちゃん……!」


 ナチュラさんとユグの叫び声を聞き、私は慌ててその場から離れる。すると、赤い実は爆発するように弾け飛んだ。


「一体、なんなの……?」


 私は困惑していた。すると、ナチュラさんは厳しい顔つきで言った。


「どうやら、私たちのことを敵だと勘違いしているようね……」


「そんな……!」


 愕然とする私に、ユグが心配そうに声をかけてきた。


「お姉ちゃん、だいじょうぶ……?」


「うん……。大丈夫だよ……」


 私は笑顔を作ると、ユグを安心させるように頭を撫でた。


(こんな時こそ、しっかりしないと……!)


 私は気持ちを切り替えると、カスタの木に向かって話しかけた。


「すみません!私たちは決して怪しいものではないんです……!」


《嘘をつくな!》


 カスタの木はそう叫ぶと、再び実を使って攻撃を仕掛けてくる。今度は2発連続で飛んできた。


「わわっ……!ちょっと待ってください……!」


 私は必死に避けながら説得を続けた。


「私たちは、あなたたちのことが知りたくて来ただけなんです……!」


《黙れ!》


 カスタは怒り狂っているようで、攻撃は激しくなる一方だった。


(このままじゃ、話を聞いてもらえそうにない……。なんとか、穏便に済ませたいんだけど……)


 私はどうにかならないかと思案したが、いい案が浮かばない。すると、ユグが前に出た。


「ねぇ、どうして危ないことしようとするの?」


《なんだと……?》


 ユグの言葉に、カスタは動きを止める。


「だって、フタバお姉ちゃんは、お兄ちゃんのこと助けたいんだよ?」


 ユグはそう言って、こちらに視線を送ってきた。私はハッとして、慌てて口を開く。


「そ、そうなんですよ!」


《……本当なのか?》


「はい!信じて下さい……!」


 私は必死に訴えかけた。すると、カスタはしばらく考え込むように沈黙した後、こう言った。


《わかった……。お主たちを信じよう》


「ありがとうございます……!」


 私はホッと胸をなで下ろす。ユグは嬉しそうに笑った。


「良かったね!お姉ちゃん!」


「うん!」


 こうして、私たちは無事に和解することができたのだった。



◆◆◆



 そして、改めて自己紹介をした私たちは、カスタと話をすることにした。


「……あの、どうして、私たちを攻撃してきたのか聞いてもいいですか?」


 私は遠慮がちに質問した。すると、カスタは少し言いにくそうに答える。


《……実は、ここ数日、魔力に不調をきたしていてな。外敵のせいではないかと思っていたのだ。……だが、違ったようだ》


「そうだったんですね……」


(魔力の不調か……。何か病気とかにかかってるのかな……?)


 私は改めてカスタに異常が無いか確認した。

 枝から葉にかけて観察していくと、葉の一部が淡褐色たんかっしょくから褐色になってしまっていることに気づく。


(これ、もしかしたら『葉枯はがれ病』かも……!)


 私は元の世界で学んでいた知識を思い出していた。葉枯病とは、その名の通り、葉全体が枯れてしまうという病気のことである。一枚の葉が病気になったら、すぐに除去しなければ、どんどん広がっていくのだ。


「すみません、失礼します……」


 私はそう言うと、カスタの葉の状態を詳しく調べた。


(やっぱり……。葉が変色している……。これは、完全に葉枯病にかかっちゃったみたい……)


《……?何をしているんだ?》


「えっとですね……」


 不思議そうに尋ねられたため、私は説明を始めた。


《そうだったのか……。拙者せっしゃは病気にかかっていたのだな……》


 カスタは枝葉を下げ、どこか寂しそうに呟いた。私は励ますように言う。


「まだ、治らないと決まったわけではありませんよ!きっと、治療すれば良くなります……!」


《そうだろうか……?》


「そうですよ……!私に任せて下さい……!」


 私はそう言うと、カスタに向かって微笑んだ。



◆◆◆



 その後、私は葉を剪定せんていし、殺菌剤をカスタの根本に散布した。これで、葉枯病の進行を抑えることができるはずだ。


「よし……。これで一安心です……!」


 私が言うと、カスタは驚いたような声で尋ねた。


《もう、大丈夫なのか……!?》


「はい……。後は、これまで通り過ごして頂ければ、元に戻ると思います」


《そうか……。感謝するぞ!》


 カスタは元気を取り戻したようで、明るい声で言う。ユグも嬉しそうだ。


「よかったね!お姉ちゃん!」


「うん!」


 私は笑顔でうなずく。ナチュラさんも安堵の表情を浮かべた。


「フタバちゃん、ありがとう……!助かったわ……!」


「いえ!お役に立てたのなら、嬉しいです……!」


 私は照れくさくなりながらも答えたのだった───。

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