第24話 ふわふわ浮かぶ『コトンの花』

「フタバちゃん、良く眠れたかしら?」


「はいっ!とっても!」


 ナチュラさんの言葉に、私は元気よく返事をした。


「そう……。良かったわ」


 ナチュラさんは優しく笑う。


「わたしも、たくさんねたよ!」


「そうね。ユグちゃんもぐっすり寝てたわね」


 ナチュラさんはクスリと笑い、ユグの頭を撫でた。

 私はそんな2人を眺めていたが、ふと夢のことを思い出した。


(あ……カゲくんに、挨拶もなしに帰ってきちゃったな……)


 私は少し寂しく思ったが、彼とは夢の中で会ったため、どうすることもできない。


(また、会えるかな……?)


 淡い期待を胸に抱きつつ、私は再びナチュラさんとの会話を楽しんだ。


「そういえば、この布団……とてもフカフカですね!」


「フフッ……。そうでしょう?良い素材を使っているの」


「良い素材、ですか?」


 私は不思議に思って聞き返した。すると、ナチュラさんは楽しげに話し始める。


「そうよ。この布団は『コトン100%』で出来ているの。フタバちゃんは、『コトンの花』を知っているかしら?」


「えっと、聞いたことはありますけど……」


 確か、『コトンの花』は綿花に似た魔法植物だったはずだ。

 私は、図鑑で読んだ知識を思い出す。


「コトンの花から採れる綿は、とても質が良いのよ。通気性も抜群だし、保温性もあるの」


「へぇ~!すごいんですね!」


 私は素直に驚いた。ふとユグの方を見ると、彼女は再び布団の中に潜りこもうとしていた。


「ふわふわのおふとん~……」


(ユグ……さっきまで気持ち良さそうにしてたもんね……)


 私は苦笑しながら、その様子を見守った。



◆◆◆



 その日の夜。私は自室で図鑑を見ていた。先ほどの『コトンの花』について調べるためである。


「えっと、何々……?『花から取れる繊維で織られた布は、柔らかくて肌触りが良く、吸湿性に優れており、耐久性も高い』……かぁ」


 私は感心したように呟いた。


「やっぱり、品質の良いものって違うなぁ……」


 私は改めて、魔法植物の凄さを実感した。


「それじゃあ、次は……っと」


 私はページを捲った。すると、そこには興味深い記述があった。


「えっと……?えっ!?」


 私は思わず声を上げてしまう。そこに書かれていたのは、驚くべき内容であった。


「『コトンの繊維で作った衣類には、浮力がある』!?」


 私は、その内容を信じられずに何度も読み直す。しかし、書かれている内容は変わらない。


(どういうことだろう……?着ると浮かべるってこと……?でも、そんなことできるわけないよね……?)


 私は疑問に思うが、同時に好奇心が湧いてきた。


(もし本当なら、試してみたいなぁ……!)


「よし……!決めた!明日、ナチュラさんに頼んでみよう!」


 私はそう決意すると、図鑑を閉じてワクワクしながら眠りにつくのだった。



◆◆◆



 翌日。朝食を食べた後、私は早速ナチュラさんに相談することにした。


「あの……お願いしたいことがあるのですが……」


「あら、何かしら?」


「実は、コトンの繊維で出来た服を作ってみたいと思いまして……」


 私がそう言うと、ナチュラさんは少しいたずらっぽく微笑んだ。


「フタバちゃん、図鑑の記述を読んだのね……?」


 図星をつかれ、ドキリとする。私が言葉に詰まっていると、ナチュラさんは言った。


「フフッ……。なんとなく、そうしそうだと思ってたのよ」


 どうやら、ナチュラさんは私が図鑑を読むことを予想していたようだ。

 私は観念して白状することにした。


「……はい。浮力があるって書いてあったので、服を作ったらどうなるのか、気になって……」


 すると、ナチュラさんはクスクスと笑い出す。私は恥ずかしくなり、顔を赤くした。


「別に責めてるわけではないのよ?ただ、あまりにも可愛い理由だったものだから……」


「うぅ……」


 私はますます顔を赤らめる。すると、ナチュラさんは優しい声で語りかけてきた。


「いいのよ。……せっかくだから、花から繊維を採るところからやってみましょうか」


「え……いいんですか?」


「もちろんよ。それに、私も興味があるもの」


 ナチュラさんはそう言ってウインクする。その様子はとても楽しそうだった。



◆◆◆



 それから私たちは、コトンの花の群生地へと向かった。

 そこは、ジャロ国に程近い場所にあった。辺り一面に咲く花は綺麗な白色をしており、風に揺られる度にふわりと甘い香りが漂ってくる。


「うわぁ~!きれいなおはなだね!」


 ユグが無邪気に喜んでいる。私も目の前の光景に目を奪われていた。


(これが全部、コトンの花なんだ……)


 私は圧倒されていた。実物を見るのもそうだが、こんなに沢山咲いているのを見たのは初めてだったからだ。


「……フタバちゃん?」


「あっ、すみません……」


 ナチュラさんに声をかけられ、我に返る。


「ごめんなさい……。ボーッとしてました……」


「ふふっ……。謝ることなんてないのよ。それよりも、まずはこの花たちに許可をもらった方が良いかしら……?」


「そうでしたね……。忘れていました」


 私はハッと気づく。いくら綺麗だと言っても、勝手に摘むのは良くないことだ。


「とりあえず、挨拶してみます」


 私は花たちに向かって話しかけた。


「こんにちは……。私はフタバといいます。ちょっとだけ、あなたたちのお花を分けてもらえないでしょうか……?」


 すると、すぐに返答がきた。


──《ん~……?いいですよ~》


 どこかふわふわした口調の女性の声が聞こえてくる。ユグもその声を聞いたらしく、喜んでいた。


「わーい!お姉ちゃん、ありがとう!」


《ふふ……どうぞ~》


 コトンはそう言うと、花を私たちに向けてきた。


(えっと……。これ、どうやって採取すれば……?)


 私は戸惑っていた。というのも、コトンの花はとても繊細で、下手に扱うとすぐ傷ついてしまいそうだったからである。


「フタバちゃん、そんなに緊張しなくても大丈夫よ」


「ナチュラさん……」


 私が悩んでいると、ナチュラさんが優しく教えてくれた。


「ほら、こうして茎の部分を持って……。そうすると、花が潰れなくて済むわ」


「な、なるほど……!」


 私は言われた通りに、そっと花に触れてみた。すると、コトンは身をよじらせるように動いた。


《ふふふ……っ。くすぐったいです……》


「あ、ごめんなさい……」


 私は慌てて手を離す。


(どうしよう……。このままだと、いつまで経っても終わらないよ……)


 私は困ってしまった。すると、ナチュラさんはクスリと笑って言った。


「フタバちゃん、そんなに気負わないで。ユグちゃんを見てごらんなさい?」


 私はユグの方を見やる。すると、彼女は楽しそうに採取していた。


「よいしょ……!」


《くふふ……》


「こっちも~!」


《ひゃあ~!くすぐったいですぅ~!》


 ユグが花に触れるたびに、コトンが身悶えるように動く。どちらも楽しげにしているので、私も楽しくなってきた。


(なんか、面白いかも……!)


「ねぇ、ユグ!もっと採ろう!」


「うん!たくさんとろ~!」


 私たちは夢中になって花を採り続けたのだった。



◆◆◆



「よし、これで終わりかな!」


「いっぱいあるね!」


 2時間後。私たちはようやく作業を終えた。

 コトンたちはというと、《ひぁあ……ふぁ……》とふらふら揺れながら息を切らせている。


「あはは……。やりすぎちゃいましたか……?」


 私は苦笑しながらコトンに近づいた。


《んぇ……?いやいや、そんなことありませんよぉ……。むしろ、ありがたいくらいですぅ……》


 コトンはどこか気持ちよさそうに答える。


(……意外とタフなのかな?まぁ、喜んでくれているみたいだし、良かった……)


 私はホッと安堵した。


「フタバちゃん、そろそろいいかしら?」


「あっ、はい。大丈夫です」


 私は振り返り、ナチュラさんの元へ向かう。彼女の手には、たくさんのコトンの花が入った籠があった。


「それじゃあ、戻りましょうか」


「はい!」


「は~い!」


 私たちは返事をした後、来た道を戻ることにした。


「今日は疲れたでしょう?明日、服を作り始めるから、楽しみにしておいてね」


 ナチュラさんの言葉を受けて、私は期待に胸を膨らませる。


(どんな服ができるんだろう……?)


 私は想像しながら帰路についたのだった───。

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