第16話 日の照る国の貴重な水源『バオブの木』

 代表者会場から数週間後。

 いつものように調査を続けていた私たちてに、手紙が届いた。その内容は、以下のようなものだった。


『フタバちゃんたち、元気にしているか?俺は相変わらず元気でやってるぜ!それで、前に約束した案内だが、こっちはいつでも大丈夫だ!なんなら今すぐでも構わないぜ!』


 私は、その内容を読んで思わず笑ってしまった。


(ジェイクさんは、相変わらずにぎやかで楽しそうな人だなぁ……)


 そんな風に思っていると、ナチュラさんから声をかけられた。


「フタバちゃん、どうかしたの?手紙……?」


「あ、はい。ジェイクさんからの手紙です」


「……ジェイクから?何が書いてあったの?」


「えっと……。ジャロ国へ来ないかっていう内容ですね」


 私は、先ほど読んだ内容をナチュラさんに説明する。

 すると、彼女は納得したような声をあげた。


「あぁ……!そういえば、そんなことを言っていたわね……。それにしても、随分ずいぶんと早いお誘いね……」


「そうですね……。まあ、近いうちに行くと伝えていたのもあるかもしれませんが……」


 私は苦笑いを浮かべながら言った。

 そこへ、ユグがやってきた。


「お姉ちゃん、元気なお兄ちゃんのとこに行くの?」


 ユグは首をかしげながら尋ねてきた。『元気なお兄ちゃん』というのは、ジェイクさんのことだろうか。


「うん、そうだよ。招待状が届いたんだけど、ユグも一緒に行く?」


「うん!行きたい!」


 私が尋ねると、彼女は満面の笑みで答えた。


「そっか。それなら、準備しないとね」


「うん!」


 こうして私たちは、ジャロ国へ行くことを決めたのだった。



◆◆◆



 数日後。ヴェルデ国を出発し、ジャロ国の国境付近までやって来た私たちは、休憩をとっていた。


「ふぅ……。ここまで来たら、あともう少しね……」


 クレアさんが額の汗を拭いながら言う。


「はい……。ようやくですね……」


 私も疲れた声で返事をした。


「それにしても、この辺りは暑いわね……」


 ナチュラさんは、手でパタパタとあおいでいる。

 彼女の言う通り、暑さを感じるようになってきた。以前、ジェイクさんから聞いていたが、ジャロ国は暑さと乾燥が厳しい土地らしい。


「お姉ちゃん、あつい~……」


「ユグ、大丈夫?はい、お水だよ」


 私はリュックから水筒を取り出し、彼女に渡す。


「ありがとう!お姉ちゃん!」


 ユグは笑顔で受け取ると、ゴクゴクと飲み始めた。


「水分補給は大事だからね」


「うん!」


 私も自分の水を飲む。ひんやりとした感覚が喉を通っていく。


「……さて、それじゃあ出発しましょうか」


「はい」


 ナチュラさんの言葉に、私はうなずいた。

 そしてしばらく歩くと、遠くから声が聞こえて来る。


「おーい!フタバちゃんたち!」


 その声の主は、ジェイクさんだった。

 彼はこちらに向かって大きく手を振っている。


「久しぶりだな!会いたかったぜ~!」


「お久しぶりです」


 私は笑顔で挨拶をする。


「お兄ちゃんだ!」


 ユグも嬉しそうに駆け寄っていく。


「おっ!ユグちゃんも元気そうだな!」


 ジェイクさんは笑顔で答えた。


「ジェイクさん、お招きいただき、本当にありがとうございます」


「なに、気にすんなって!せっかく来てくれたんだ。ゆっくりしてくれよな」


「はい、お世話になります」


 私はペコリとお辞儀する。


「よしっ!そうと決まれば、早速行こうぜ!」


 ジェイクさんの言葉で、私たちは彼の家へと向かったのだった。



◆◆◆



 到着した家は、周りと比べると比較的涼しかった。どうやら、魔法植物で温度を調整しているようだ。


「この国は、この通り暑さが厳しいからな。魔法植物には助けられているんだよ」


「なるほど……」


 ジェイクさんの説明に、私は感心しながら相槌あいづちを打つ。

 その土地に合った魔法植物を育てることは、とても重要なことなのだと実感させられた。


「ジャロ国にしかない魔法植物って、どんなものがあるんですか?」


 私は気になって質問する。


「あぁ、それなら『バオブの木』だな。ジャロ国といったらこれだ!」


「バオブの木?」


 初めて聞く名前に、私は思わず聞き返す。


「ああ。ジャロ国ではポピュラーな木で、水の魔力を持っているんだ。この国は、暑いだけじゃなく乾燥しているだろう?だから、バオブの木は欠かせないんだよ」


 ジェイクさんは得意そうに話す。


「そうなんですね……」


「実際に見てみるかい?」


 興味津々で聞いていると、ジェイクさんはそう提案してくれた。


「えっ……?いいんですか?」


「もちろんだとも!そのために呼んだようなものだからな!」


 ジェイクさんは笑顔で答える。それから、家の庭へ出るように促された。


「ここにあるのが、バオブの木だ」


 庭に出ると、そこには大きな樹木があった。


「これが……」


「ははっ、大きいだろう?この木は、俺が産まれるずっと前からあるんだよ」


 ジェイクさんは誇らしげに語る。

 私は改めて木を見上げた。『バオブの木』は、バオバブに良く似ており、地面からまっすぐ伸びた幹は太くて頑丈そうだ。


「そういえば、フタバちゃんたちは植物と話せるんだよな?よかったら、話してみてくれないか?」


 ジェイクさんが、期待の眼差しで見つめてくる。


「はい、いいですよ!」


 私は快く引き受ける。それから、ユグと一緒にバオブの木に話しかけた。


「こんにちは!わたしはユグだよ!」


「私はフタバです。よろしくお願いします」


《…………》


 しかし、バオブは何も語らなかった。


「あれ……?」


 ユグは不思議そうに首を傾げる。私も不思議に思った。


(普通なら、返事がくるはずなんだけど……)


「あの、ジェイクさん……。バオブの木は、魔法植物なんですよね?」


 私はジェイクさんに尋ねてみた。『植物対話プランツ・ダイアログ』は、魔法植物にしか使えない。もしバオブの木が原生げんせい植物なら、会話ができなくてもおかしくはないからだ。

 だが、ジェイクさんは首を横に振る。


「いや……バオブの木は魔法植物だ。水の魔力を持っていることは確かだからな」


「そうなんですか……?」


 私はますます困惑してしまう。


(どうして、返事がないんだろう……?)


 すると、ふいにこんな声が聞こえてきた。


──《……客か?》


「え……?」


 私は思わず声を上げる。今の声は……まさか……!


「あなたの、声ですか……?」


 恐る恐る問いかけると、再び声が聞こえてくる。


《……そうだ。お前は何者だ……?何故ここに来たのだ……?》


 それは間違いなく、目の前の大木から発せられたものだった。


「私は、フタバといいます。ヴェルデ国から来ました」


 私は緊張しながらも、丁寧に自己紹介をした。

 すると、今度はユグが声をかける。


「わたしはユグだよ!元気なお兄ちゃんに、遊びにおいでって言われたから来たの!」


 ユグも元気よく答える。


《…………そうか》


 すると、長い沈黙の後にバオブは答えた。


(もしかして、もともと無口なのかな……?)


 私はそんなことを考えていた。


「お兄ちゃんは、何ができるの?」


《……水を、作り出せる》


「そうなの!?やってやって!」


《……!?》


 バオブは、ユグの勢いに驚いたのか黙り込んでしまった。


(……あぁ、やっぱりそうなるか)


 私は苦笑いを浮かべた。


「……ユグ、いきなりそんなことを言ったらダメでしょう?」


 私はユグに注意する。


「えぇ~!だって、見たかったんだもん……」


 ユグは残念そうに呟いた。


「ごめんなさい……。この子は、好奇心旺盛おうせいな子なので……」


 私が謝ると、バオブは落ち着いた声で言った。


《……問題ない。だが、それほど我の能力が見たいと言うのであれば、見せてやらないこともないぞ?》


「ほんと!?やったぁ!」


 ユグが嬉しそうに飛び跳ねる。


「ありがとうございます!」


 私は笑顔で言う。


《うむ。……では、行くぞ》


 そんな声が聞こえたかと思うと、急に地面から水が噴き出した。

 まるで噴水のように、大量の水が出てくる。


「わ~!すごい!」


 ユグはその光景を見て目を輝かせている。私も同じように、その光景に見入っていた。

 しばらくして水が出なくなると、バオブは静かに語り始めた。


《我が能力は、美しい水の生成だ。幹に溜め込んだ水を、根を通して放出することができる。ただし、その量は限られているがな》


「そうなんですね……!」


 私は感心しながら相槌を打った。

 それから、私たちはしばらくバオブの話を聞いたのだった───。

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