第15話 3つの国の代表者たち
ヴェルデ国に戻り、数週間が経ったある日のこと。
研究所に、オリバーさんが訪ねてきた。
「今回の依頼は、これくらいだな」
彼は、持ってきた依頼書の束を机に置く。
「いつもありがとうございます、オリバーさん」
「いやいや、こちらこそフタバさんには感謝しているよ」
オリバーさんは、私に向かって笑いかける。
「……そういえば、オリバー。そろそろ代表者会議の時期よね?そっちは大丈夫なの?」
依頼書を整理していたナチュラさんが、ふと思い出したように尋ねた。
「あぁ……。まぁ、なんとかなるさ」
そう言って、オリバーさんは苦笑する。
「本当に……?大丈夫なの?」
ナチュラさんは、ジト目で見つめている。
(……?)
私は疑問に思って口を開く。
「代表者会議って、なんですか?」
「あぁ……。そうか、フタバさんは知らないのか」
オリバーさんはそう言うと、説明してくれた。
簡単に言えば、各国の代表が集まって行う会議らしい。議題は様々らしいが、主な内容は、それぞれの国の現状報告と情報交換だという。
これは前にオリバーさんから聞いていたことだが、この大陸にある3つの国は、全て共和制を取っているそうだ。
そして、それぞれの国で代表者を決めているらしい。
「今回の開催地は、このヴェルデ国になっているんだ。……よかったら、フタバさんたちも参加してみるかい?」
「えっ!?」
突然の提案に戸惑ってしまう。
「いいんですか……?私たちみたいな部外者が参加するなんて……」
「あぁ……。構わないよ。むしろ歓迎されるんじゃないか?」
「……?」
私とユグが首を傾げていると、ナチュラさんが言った。
「フフッ……。確かにそうかもしれないわね」
「……?」
ますます意味がわからなくなる。
「とにかく、行ってみればわかるよ」
「……わかりました」
私は納得できないまま、了承したのだった。
◆◆◆
数日後、私たちは代表者会議に出席することになった。
会場は、オリバーさんの家だった。なんでも、ここが一番広いからということらしい。
「こんにちは……」
「やあ、いらっしゃい」
オリバーさんが出迎えてくれる。中に入ると、すでに何人かの人たちがいた。
「あっ!フタバさん!」
聞き覚えのある声がする。声のした方を見ると、そこにはクレアさんの姿があった。
「クレアさん!来てたんですね!」
私は驚いて声をあげる。彼女はこちらに駆け寄ると、私の手を掴んできた。
「えぇ。私はブラウ国の代表者なので。……それより、またお会いできて嬉しいです!」
「はい!私もですよ」
私は笑って答える。すると、ユグがこちらへ近寄ってきた。
「めがねのお姉ちゃん!ユグもいるよ!」
「わわっ……。ユグドラシル様……!」
「むぅ~……。ユグって呼んでよ~!」
クレアさんの服の
「……ユ、ユグ……様……。すみません、これで許してください……」
「うん!わかった!」
ユグはニッコリと笑う。どうやら、満足したようだ。
「……うん?もしかして、フタバさんたちはクレアと会ったことがあるのかい?」
私たちのやりとりを見てか、オリバーさんが尋ねてきた。
「はい。少し前に、ブラウ国に調査に行く機会がありまして……」
「あぁ……なるほど……」
私の説明を聞いて、オリバーさんは察したようだった。
すると、そこへ1人の男性が近づいてきた。
「おいおい……。俺を置いて盛り上がるなよ~……」
男性は、オリバーさんの肩に手を置く。
「おっと……。悪いな、ジェイク」
オリバーさんは謝ると、男性を紹介してくれた。
「この人は、ジャロ国の代表のジェイクだ」
「よろしくな!」
ジェイクさんは、ニカッと笑う。彼は
「こちらこそ、よろしくお願いします」
私はペコリとお辞儀をする。
「ところで、オリバー。この女の子は誰なんだ?」
「あぁ……。彼女は、この世界を救ってくれた救世主だよ」
「なっ!?マジで!?」
ジェイクさんは驚くと、まじまじと私の顔を見てきた。
「あの……?」
私は困惑しながら尋ねる。
「はっ!?ごめん!ちょっとびっくりして……!」
「いえ、気にしないでください」
私は苦笑する。すると、クレアさんが横から入ってきた。
「……ジェイク、知らなかったんですか?世界樹の危機は知っているはずですよね……?」
クレアさんはジェイクさんに詰め寄っている。
「あ、いや……。それは……その……」
「もう……しっかりして下さい!ジャロ国の代表者なんですから!」
「わかった、わかったから……。そんなに怒るなって……」
ジェイクさんは、たじたじになりながら答えた。
(この2人、年齢はジェイクさんの方が上に見えるけど……。立場は逆みたい……)
私は彼らの様子を見て、密かにそう思ったのだった。
◆◆◆
それから私たちは部屋の中へ入り、早速代表者会議が始まった。
「さて、現状報告なんだけど……。ヴェルデ国は、今のところ問題はないな」
オリバーさんはそう言うと、資料を見ながら話し始めた。
「フタバさんが来てから、調査の進みが早くなったからね。これには、本当に感謝しているよ」
「いえ……。少しでもお役に立てているなら、良かったです」
私はそう言って、微笑み返す。ナチュラさんとユグも、うんうんと
「さすがは、フタバさんですね……!……では、ブラウ国の報告に移りますね」
クレアさんはそう言うと、手元の資料に目を落とした。
「……まず、農作物ですが……。順調に育っています」
「そうか……。それなら良かった」
オリバーさんは
「特産の『カカワ』も、品質が良い状態で収穫できています」
(あっ……。この前いただいたやつだ……)
私は以前食べた味を思い出して、少しだけ頬を緩ませた。
「お兄ちゃん、元気にしてる?」
「はい。私には言葉まではわかりませんが、元気だと思いますよ」
ユグの問いかけに、クレアさんが笑顔で答える。
「他の産業も、特に問題はなさそうだな……」
オリバーさんはそう言って、書類に目を通す。それから、私たちの方を見た。
「フタバさんたちは、ブラウ国に行ったんだったね。どうだったかい?」
「はい。……すごく良い場所でしたよ」
私は笑顔で答える。それから、ブラウ国での出来事を簡単に説明していった。
「……そうか。ブラウ国は、寒いけれど良いところだからね」
オリバーさんは嬉しそうに微笑んでいる。自国を褒められたクレアさんも嬉しそうだ。
すると、黙って聞いていたジェイクさんが口を開いた。
「なんだよぉ~……。俺の住むジャロ国だって、良いところだぜ?……というか、フタバちゃんたちが行ったことがないのって、ジャロ国だけなのか?」
「えぇ……。そうですね」
私は肯定する。すると、ジェイクさんは驚いたような顔になった。
「マジかよ……!……なぁ、フタバちゃん……今度、ジャロ国に来てくれよぉ~……。美味しいものもいっぱいあるし……!」
「えっ……?」
まさかの誘いに戸惑ってしまう。
「ちょっと、ジェイクったら……!困らせないの!」
クレアさんが呆れたように注意する。
「えぇ……。でもさぁ~……。俺だけ仲間外れみたいで寂しいじゃん……」
ジェイクさんは、その大きな身体を縮こまらせて呟く。
「うーん……。……わかりました。それじゃあ、近いうちに遊びに行きますね」
私はそう言って苦笑する。
「ホントか!?やった……!」
ジェイクさんは勢いよく顔を上げ、目を輝かせる。
「ちょ、ちょっと……!」
「……ハッ!?す、すまねぇ……。つい……」
クレアさんに指摘され、ジェイクさんは再び顔を伏せてしまった。
そこへ、ユグが近づいていった。
「ねえねえ!そこって、どんなところなの?」
「お嬢ちゃん……!いい質問だな!そうだなぁ……。ここよりは気温が高くて、乾燥してるかな……。でも、ジャロ国でしか食べられないものとかもあって、面白いぞ!」
ユグの問いに、ジェイクさんは意気揚々と答えた。
「そうなんだ!楽しみ~!」
ユグはワクワクした様子で答える。
「あぁ!ジャロ国に来たら、案内してやるよ!」
「うん!約束だよ……!」
「おうよ!」
2人の会話に、私は思わず笑ってしまう。
その後も会議は続き、無事に終了したのだった───。
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