第4話 食べ過ぎ注意!『ランジュの実』
「どうして、
「そうね……」
研究所内に戻った私たちは、収穫した野菜を眺めながら話す。
「もしかすると、魔力を宿していないから、でしょうか……?」
「おそらく、そうだと思うわ」
ナチュラさんは、私の問いに同意する。
「原生植物と魔法植物の違いは、魔力の有無だけ。それなら、魔力を持たない原生植物に、『
「なるほど……」
私は感心して呟いた。
(魔法植物は、魔力を使って私やユグと会話しているのかな……)
魔法についての知識がほとんどないため、はっきりとわからないが……。そう考えると
「まぁ、そのあたりはもう少し研究の余地がありそうだけれど……。ひとまず、今回はこれくらいにしておきましょうか」
ナチュラさんはそう言うと、椅子から立ち上がった。
「はい……。わかりました」
「それじゃあ、昼食の準備をしましょうか。レティスがたくさん収穫できたから、サラダにでもしましょうか」
「……サンドイッチは?」
ユグがナチュラさんを見上げて尋ねた。
「ふふ……。ユグちゃんは本当にサンドイッチが好きね。……でも、ごめんなさい。ジャムが無くなってしまったのよ……」
ナチュラさんは申し訳なさそうに言った。
「えぇ~……!やだぁ~……!食べたいよぉ~……!」
ユグは目に涙を浮かべて、駄々をこねる。
「うーん……。そうだわ!こうしましょう!」
ナチュラさんはポンッと手を打った。
「フタバちゃん、ユグちゃん、ジャムの材料を収穫してきてくれないかしら?」
「収穫、ですか?」
「そうよ。『ランジュの実』を採ってきてほしいの。お願いしても構わないかしら?」
ナチュラさんは私とユグを交互に見て尋ねる。
「はい……!」
「いくー!」
私は笑顔で、ユグは元気よく返事をしたのだった。
◆◆◆
それから私たちは、ナチュラさんから頼まれた通り、ジャムを作るための『ランジュの実』を採りに出かけることになった。
ランジュの木は、研究所から少し東に行った場所にあるらしい。
「2人とも、気を付けてね」
「はい!行ってきます」
「いってきまーす!」
ナチュラさんに見送られ、私たちは家を出た。道中、興味のあるものに目を奪われて寄り道しようとするユグを引き留めたりしつつ、私たちは目的地を目指す。
そして、数分ほどで目的の場所に到着した。辺り一面に広がる木は、どれも拳大ほどの実をつけている。
私は、そのうちの1本に近付いてみる。
(これが……ランジュの木……)
見上げると、葉の隙間からオレンジ色の果実が見えた。
『ランジュの木』はオレンジの木に似た魔法植物だ。でも、オレンジというよりはミカンに近いかもしれない。
私は早速、ランジュの木に話しかけた。
「……こんにちは」
──《……ん?あたしに話しかけてるのは、誰?》
すると、若い女性のような声が返ってきた。
「はじめまして、私はフタバといいます」
「わたしは、ユグだよ!」
私に続いて、ユグも挨拶をする。
《あははっ!元気な子だね!あたしに何か用事?》
ランジュは枝葉を揺らして楽しそうに笑う。
「はい。実は、ジャムを作りたくて……。いくつか実をいただいてもよろしいですか?」
《ジャム?いいよ!好きなだけ持っていきなよ!》
私が聞くと、ランジュはあっさり
「わぁ~!すご~い!」
ユグは目を輝かせながら、次々と落ちるランジュの実を手に取って、楽しそうに見つめていた。
「ありがとうございます!」
私はお礼を言い、持ってきたカゴへ拾い集める。落ちたら傷が付いてしまわないか心配だったが、その必要はなさそうだった。
「やわらかいねぇ~!」
「そうだね……!」
ユグの言葉に、私は同意する。ランジュの実は、まるで毛糸玉のような手触りをしていた。ユグは、集めたランジュの実を両手に持って、嬉しそうに頬ずりする。
《ふふっ!気に入ったみたいね!》
「うん!ありがとー!」
ユグは満面の笑みで答える。
《いえいえ!どういたしまして!……そうだ!せっかくだし、ここで一つ食べてみなよ!》
ランジュはそう言うと、一際大きな実を落とす。それは熟していてとても美味しそうだ。私はそれを拾って、皮をむく。
(なんだか、不思議な感じだな……)
むいた皮は、その手触りも相まってタオルハンカチのようだと思った。
果肉を口に入れてみると、爽やかな酸味と甘味が口に広がっていく。
(おいしい……)
あまりの美味しさに感動して言葉が出なかった。ユグも夢中で食べている。
《気に入ってくれたようで何よりだよ!……あっ、美味しいのはわかるんだけど、食べ過ぎには気をつけてね!》
「はい!わかりました」
私は素直に返事をした。
「またくるねー!」
《いつでもおいで!待ってるよ!》
ユグの言葉に応えるように、ランジュは葉っぱをゆらした。
その後、私たちはナチュラさんの待つ研究所へと戻った。
◆◆◆
「2人とも、お帰りなさい!どうだった?」
ナチュラさんは私たちの姿を見ると、笑顔で迎えてくれた。
「ただいま戻りました」
「いっぱいとれたよ!」
私たちは収穫したランジュの実を見せる。
「ありがとう。これでジャムができるわね。それにしても……たくさん採ったわね」
ナチュラさんは驚いた様子で言った。
「はい!あまりに美味しかったので、つい……」
「ふふっ……そうだったのね。それじゃあ、これからジャムを作るから、手伝ってくれるかしら?」
「もちろんです!」
「がんばるー!」
こうして、私たちはジャム作りを始めたのだった。
ナチュラさんの指示に従い、私はランジュの実を洗ったり、
「さぁ、そろそろいいわね……」
しばらく経って、ジャムが完成した。
「わぁ……!」
「きれい……!」
出来上がったジャムを見て、私とユグは感嘆の声を上げた。
それは、宝石のようにキラキラと輝いていた。
「でしょう?私が作った中でも、特に綺麗なものができたと思うわ」
ナチュラさんはそう言って微笑んだ。
「すごいですね……!」
「ほんとうに、きらきらだねー」
私たちは、改めてジャムを見る。
「ふふ……。じゃ、そろそろサンドイッチ作りに取り掛かりましょうか」
「はい!」
「はーい!」
それから私たちは、完成したジャムを使ってサンドイッチを作り始めようとしたのだが……
「……あれ?ユグ、なんか髪がふわふわしてない?」
「……ん~?」
ユグの髪の毛が、いつもよりもふわふわしていたのだ。それは、下敷きを使って頭を擦った時のようで……
「あら、本当ね……。どうしたのかしら?」
ナチュラさんも首を傾げている。
私は魔法植物の図鑑を開いて、ランジュのページを確認する。
「えっと……『ランジュの木は電気の魔力を宿している』『実を食べ過ぎると静電気がたまるので、注意が必要である』……。これだ!」
私は急いで読み上げた。
「あぁ……なるほどね……」
ナチュラさんは納得して呟いた。
「……?」
ユグは不思議そうな顔をしている。
「あのね、ユグちゃん。ランジュの実、いくつ食べた?」
「うーん……わかんない!」
ユグは元気よく答えた。
「えぇ……」
(そんなにたくさん食べてたの!?)
ユグの回答に、私は驚く。
「お姉ちゃん!わたし、ふわふわなの?さわる?」
そう言って、ユグは私に近づいてきた。
(ちょっと待って……!今、ユグに触れたら……!)
私は慌てて後ずさる。すると、ユグはそういう遊びだと思ったのか、楽しそうに笑いながら追いかけてきた。
「きゃははっ!お姉ちゃん、まて~!」
「うわぁあっ!ユグ、来ないでー!」
「あらあら……フタバちゃん、大変そうね」
ナチュラさんは、困っている私の様子を見ながらクスッと笑って言った。
(うぅ……他人事だと思って~!)
私は心の中で叫ぶ。
それからしばらく、私はユグから逃げ回ったのだった───。
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