第33話 灼熱の青き炎!『ロジエの花』

「魔力の制御、ねぇ……。これはなかなか難しいところなのよね」


「やっぱり、そうなんですか……」


 研究所に戻った私たちは、レグラのことについてナチュラさんに相談していた。


「ええ。魔力の強さにもよるのだけど、身体以上の大きな力を制御するというのは、とても大変なことなのよ」


「そう、ですよね……」


 私は肩を落とす。せっかく仲良くなれたのに、これで終わりなのかと思うと、寂しかった。すると、ナチュラさんは苦笑して私の頭にポンと手を置いた。


「まあ、まだ何もわかっていないのだし、諦めるのは早いわ。私たちは、魔法植物の研究者なんだから」


「! そうですね……」


 私は顔を上げる。すると、ナチュラさんは優しい眼差しで私を見下ろして言った。


「それに、きっと何か方法があるはずよ」


「……! はい!」


「ええ。だから、一緒に頑張りましょう!」


「はい!」


 私はしっかりと返事をする。すると、ユグが嬉しそうに飛び跳ねた。


「わーい! がんばろうね!」


「うん!」


 ユグの言葉を聞いて、私は笑顔で答える。そんな私を見て、ナチュラさんは安心したように微笑んだ。


「さあ、そうと決まったら調査を再開しましょうか」


「はい!」


 私は大きく返事をして立ち上がる。こうして、私たちは決意を新たにしたのだった。



◆◆◆



 それから数日が経ったある日のこと。


「フタバちゃん! ユグちゃん! 大変よ!」


「どうしたんですか?」


「これを見て!」


 ナチュラさんが持ってきた紙を見ると、そこには『オリジンの森付近でボヤが発生したとのこと。至急調査されたし』と書かれていた。


「オリジンの森の近くで発生した……? これって……!」


「ええ。これは私の予想だけど、ラーレルの時と同じ犯人の仕業かもしれないわね」


 ナチュラさんは真剣な表情で告げる。私はゴクリと唾を飲み込んだ。


「ぼや? それってなぁに?」


 ユグが不思議そうな顔をする。ナチュラさんはユグの目線まで屈み込むと、説明を始めた。


「ボヤっていうのはね、簡単に言うと火事のことよ」


「ええ〜!?」


 ユグはびっくりした様子で叫ぶ。足踏みしながら、不安そうに口を開いた。


「ねっ、ねっ……。森が、もえちゃったの……?」


「いいえ。それは大丈夫よ。でも、放っておくわけにはいかないわ。もし、これが放火だとしたら、また同じことが繰り返される可能性があるもの。だから、急いで調査に行きましょう!」


「はい!」


 私は力強くうなずく。ナチュラさんは満足そうにうなずき返すと、立ち上がって私たちを見た。


「さて、行きましょうか!」


「はい!」


 こうして、私たち3人はオリジンの森へと急いで向かったのだった。



◆◆◆



 オリジンの森は、相変わらず神秘的な雰囲気に包まれていた。私たちが近づくと、木たちがざわめくように揺れ始める。


「フタバちゃん、ユグちゃん。気をつけてね? 何があるかわからないから……」


「はい……」


「わかった……」


 ナチュラさんが心配そうに声をかけてくれる。私は緊張しながらも返事を返した。ユグも珍しく神妙な面持ちでうなずく。


「よし……。じゃあ、行きましょうか」


 私たち3人は、慎重に森の中を進んでいく。だが、この広大な森の中で、たった一つの手がかりを見つけるのは容易ではなかった。


「みつからないね……」


 ユグがぽつりと呟く。ナチュラさんは困り果てたような声で答えた。


「そうねぇ……もう少し奥の方に行ってみるしかないかしら……」


「そう、ですね……」


 私は歯切れの悪い返事をしながら考える。


(このままじゃラチが明かない……!こうなったら……!)


 意を決して、私は2人に話しかけた。


「あの……!ちょっと思いついたことがあるんですけど……」


「フタバちゃん、本当!?」


 ナチュラさんは驚いたように声をあげる。私は少しだけ自信なさげに話し始めた。


「あくまで、可能性の話です……。それでも、いいですか?」


「もちろんよ!」


 ナチュラさんは興奮気味に話す。私はホッと息を吐いた。それから、自分の考えを話し始めた。


 私の考えはこうだ。仮に、誰かが森に火を放ったとすれば、必ず痕跡こんせきが残っているはずだ。そして、その痕跡さえ見つかれば、そこから犯人の正体を探れるのではないかと考えたのだ。


「なるほど……。確かにフタバちゃんの考えは一理あるわね……」


 ナチュラさんは考え込みながらつぶやく。私の隣では、ユグが難しい顔をして首を傾げていた。


「うぅん……。わたしには、むずかしい話はよくわからなかったよ〜」


「ごめんね、わかりにくかったかな……。何か、燃えたような跡があれば、それがヒントになるんじゃないかと思ったんだけど……」


「ふぇ? どうして?」


 ユグはキョトンとした顔で尋ねてくる。私はユグにわかるように、言葉を選びながらゆっくりと説明した。


「例えば、地面とかに焦げたあとがあったら、それを燃やした人が近くにいたってことだよね?」


「うん! そうだね!」


「だから、その場所を探してみたらいいんじゃないのかなって思ったんだ」


「そっかぁ! じゃあ、さがせばいいんだね!」


「そういうこと!」


 私は笑顔でうなずく。すると、黙って話を聞いていたナチュラさんが口を開いた。


「……ねぇ、2人とも。何か焦げ臭い匂いがしない?」


「えっ?」


 私は驚いて辺りを見回す。すると、かすかに煙のような匂いが漂っていることに気がついた。


「まさか……! ナチュラさん! 急ぎましょう!」



◆◆◆



 私たちは駆け出す。そして、木々の間を抜けていくと、開けた場所に出た。


(火元はこの近く……?)


 私は目を凝らす。すると、ポツンと低木があり、バラに似た花が咲いていることに気がついた。


「あれは……?」


「あっ! お姉ちゃん!! あれだよ!!」


 ユグが指差す方を見ると、その花の下の地面に黒い焦げ痕のようなものが見えた。そして……


──《このロジエに危害を与える者は、焼き尽くしてくれるッ!灼熱しゃくねつ業炎ごうえんよ、が敵を滅せよ!》


 どこからか、男性のような声が聞こえてきた。次の瞬間……目の前の花が勢いよく燃え上がったのだ。


(な、何……!?)


 私は呆然と立ち尽くす。すると、そのバラのような花から再び声が響いてきた。


《フハハハ! 火力を上げるぞッ! ブルー・フレイム!》


「うわっ!」


 私は思わず声を上げる。すると、ユグが私の服をぎゅっと掴んで叫んだ。


「お姉ちゃん!!」


「えっ……!?」


 私はハッとして前を見る。すると、今度は花から青い炎があがった。赤かった花は、みる間に青白い色に染まっていく。


《ククク……。どうだ! この炎は! 我に触れると火傷する……っあ、熱っ》


(……?)


 声の主は急に苦しそうな声を出し始めた。私は不思議に思って観察していると、ユグが服のすそをぐいぐいと引っ張ってきた。


「ねぇねぇ……。なんかあの声ヘンだよ……。だいじょうぶなのかなぁ?」


 ユグは不安そうな表情を浮かべている。ナチュラさんも心配そうな様子で花を見つめていた。


「このままだと、燃えてしまうんじゃないかしら……」


「……確かに」


 しばらく見ていると、その花が慌てたように声をあげた。


《あっ、あっ……。た、助けてぇ……》


「…………」


「お姉ちゃん……」


「……とりあえず、消火してあげましょうか」


 私たちは無言でうなずき合うと、水筒の水を花にかける。すると、すぐに鎮火することができた。


「はぁ……」


 私はため息をつく。それから、花に向かって話し掛けた。


「あのー、大丈夫ですか?」


《あぁっ! 貴女は我が救世主! この身がまさに炎に焼かれんとする時に、駆けつけてくださるとは……なんたる奇跡……! 運命がディスティニー!》


「ええーと……」


 ずいぶんとテンションの高い性格らしい。私は戸惑いながらも、もう一度尋ねた。


「えーと、あなたは一体誰なんですか?」


《え? あぁっ、申し訳ありません! 自己紹介が遅れました。我が名はロジエ。以後、よろしくお願いします!》


 その花─ロジエは花弁をいくつか散らし、そう答えた。


「あ、はい……こちらこそ。えっと、お話を聞かせてもらってもいいですか?」


 私がそう尋ねると、ロジエは嬉しそうに語り出した。


勿論もちろん、オフコース!いくらでも聞きたまえ!》


「……どうして、あんなことに?」


《それは、我が聖域に怪しき者が侵入してきた為……。我がブルー・フレイムをもって敵を……》


「……お兄ちゃん、普通にしゃべって?」


 周りくどい喋り方をするロジエに、ユグがズバッと切り込む。私もユグの意見に賛成だった。すると、ロジエはショックを受けたように声を上げた。


《なにぃ!? そんな馬鹿な!? 我の口調に文句をつけるとは!?》


「だって……。むずかしいことばっかりいうんだもん」


 ユグの言葉に私は深く同意する。ナチュラさんも困ったような表情をしていた。


「そうねぇ……。もう少しわかりやすく話してほしいわ……」


《……ご、ごめんなさい……》


 ナチュラさんの一言で、ロジエはシュンとした声を出す。私は苦笑しながら再び尋ねたのだった───。

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