第6話 日差しを魔力に『シラソーの花』

「……ということがあったんですよ」


「そうだったのねぇ。さすがはフタバちゃんね!」


 ナチュラさんは微笑みながら言う。

 私たちは調査を終えて、研究所に戻ってきていた。今はナチュラさんとお茶を飲んでいる最中である。

 ちなみに、ユグは疲れてしまったようで、ソファに座って眠ってしまった。


(ユグも楽しめたみたいで、良かったな……)


 私はそんなことを考えながら、紅茶を一口飲む。


「ところで、ラブルの実はどうだった?」


「はい!美味しかったので、いくつかお土産にもらってきました」


 ナチュラさんが尋ねてきたので、私はリュックから小瓶を取り出し、テーブルの上に置いた。

 潰れない程度に、からの瓶に詰めてきたのだ。


「あら、わざわざありがとね!」


 ナチュラさんはお礼を言うと、1つ手に取り、中身を口に含んだ。


「……んー!甘酸っぱくて美味しいわ!」


「ですよね!」


 私は思わず同意する。


「フフッ……。ラブルの実は、『恋の味』なんて言われているのよ。甘酸っぱい初恋の味ってところかしら?」


 ナチュラさんは悪戯いたずらっぽく笑う。


「へぇー……。素敵な表現ですね!」


(『恋の味』か……。確かにそうかもしれないな……。こう、キュンとくるような……)


 そんなことを考えていると、ナチュラさんが尋ねてきた。


「ねぇ、フタバちゃんは恋したことないの?」


「恋、ですか……」


(うーん……。これまで、そんなに意識したことはなかったな……)


 私は考え込む。


「どうしたの?」


「いえ……。私は今まで、あまり恋愛に興味がなかったみたいで……」


「そうなのね……。まぁ、フタバちゃんは『植物が恋人』みたいなところがあるものね……」


「そうかもしれません……」


 ナチュラさんの言葉に、私は苦笑した。


「でも、私はフタバちゃんらしくて良いと思うわ!……それに、私も研究一筋だから同じようなものよ」


 そう言うナチュラさんは、どこか遠い目をしていた……。


「ま、まぁ……。人それぞれですよ!……それより、明日はどんな魔法植物を調査すれば良いですか?」


 私は話を逸らすように尋ねる。


「それなら、明日は『シラソーの花』について調べてもらおうと思ってるんだけど……。どうかしら?」


 ナチュラさんはすぐに切り替えて答えた。


「わかりました!行ってきますね!」


 こうして、私たちの次の調査が決まったのだった。



◆◆◆



 翌朝。朝食を食べた後、私とユグはシラソーの花畑へ向かった。ナチュラさんは他に研究したいことがあるらしく、「2人で大丈夫よね?何かあったら、すぐに連絡してね」と言ってくれた。


 今回調査する『シラソーの花』は、ヒマワリに似た魔法植物だ。違っているのは花びらの色だけ。その色は黄色ではなく、白色をしているそうだ。

 しばらく歩くと、目的の花畑が見えてきた。


「すご~い!いっぱい咲いてるね!」


 ユグは目をキラキラさせて言った。

 一面に広がる白い花の絨毯は、太陽の光を浴びて輝きを放っていた。


(わぁ……本当に綺麗……)


 私は心の中で呟く。


「……ねぇ、お姉ちゃん!はやくいこうよ!」


 ユグは待ちきれない様子だ。


「そうだね。行こうか!」


 私はそう言って歩き出すと、ユグも元気よくついてきた。

 花へと近づいてみると、その白さがよくわかる。まるで雪景色の中に入ったような気分だ。


「お姉ちゃん、お花とおはなししていい?」


 ユグは私を見上げて尋ねる。


「もちろんだよ!」


 私が答えると、ユグは嬉しそうに笑い、近くにあった花に向かって話しかけた。


「こんにちは!わたしはユグっていうの!よろしくね!」


 すると、花は微かに揺れた。


──《……うん?お客さんかな?》


「そうだよ!おはなししにきたの!」


 ユグは元気よく答えた。


(目的は、調査だけどね……)


 私は内心でツッコミを入れる。


《そうかそうか!みんな、お客さんが来たよ~!》


 1輪のシラソーが声を上げると、周りのシラソーたちも話し始めた。


《お客さん?……きゃあ!可愛いじゃない!》


《えっ、オレも見たい!ちょっとどいてくれないか?》


《はいはーい!……これで見える?》


 シラソーたちは花の角度を変えなが、わいわいと話し始める。


「あはは……すごいね……」


 私は少し圧倒されていた。すると、そんな私にユグが話しかけてきた。


「お姉ちゃん!こっちきて!いっしょにおはなししようよ!」


「うん、わかったよ」


 私はユグの隣に行き、シラソーたちに話しかけた。


「こんにちは。私はフタバです!今日は、あなたたちを調べさせてもらいに来ました!」


 すると、先程よりも大きな声で反応があった。


《おぉ……!オレたちのことを調べるのか!それは楽しみだ!》


《いいわね!あたしたちに何を聞きに来たの?》


《少し緊張するな……》


《そうだね……》


 シラソーたちの反応は案外バラバラだった。いろいろな性格の花が混在しているのだろう。


「えっと、まずは質問をしますね!あなたたちは、太陽が好きなんですか?」


 私は、まず気になったことを尋ねた。


(ヒマワリは太陽に向いているけど、シラソーはどうなんだろうか?)


 私は期待しながら返答を待つ。すると、あるシラソーがこう言った。


《オレたちが日差しが好きだって?よくわかったなぁ!その通りだよ!》


《そうね!アタシたちは、太陽の光がないと生きていけないのよ!》


《このあたりは暖かいから、過ごしやすいんだ》


 他のシラソーも次々と話し出した。


「そうなんですね!ありがとうございます!」


「わたしも、おひさまは好きだよ!」


 ユグは嬉しそうに言った。そこへ、こんな声がかかった。


《……まぁでも、どっちかっていうと、オレたちは夜の方が好きなんだけどな》


《そうそう!暗い方が気分が上がるのよね~》


《それには同感だね》


「えっ……そうなんですか?」


 私は思わず聞き返す。


《まぁな。オレたちって、基本的に夜行性なんだよ》


 シラソーは葉っぱを揺らしてそう言う。


「へぇ……。でも、今は昼間なのに……」


 私は不思議に思いながら尋ねた。


《それはだな……夜になればわかるさ!》


《見てもらった方が早いかもしれないわね!今夜、ここに来てみて!》


「わかりました!夜にまた来ます!」


 私は約束して、その場を後にした。



◆◆◆



 夜になり、私たちは再びシラソーの花畑を訪れた。そこで、私は目の前に広がる光景に目を奪われていた。


「うわぁ……きれい!」


 ユグが目を輝かせて言う。

 シラソーの花畑は、昼間とは違ってカラフルな色で彩られていた。


「これは……どういうことなんですか?」


 私が尋ねると、シラソーが答えてくれた。


《驚いたか?これが、夜のオレたちさ!》


《ウフフッ!アタシたちは、昼間に日差しをたくさん浴びることで、こうして輝けるのよ!》


《太陽光が、魔力を強めてくれるんだ。どうだい?僕たちの姿は綺麗だろう?》


「はい!とても綺麗で驚きました!教えてくれて、ありがとうございます!」


 私は素直に礼を言う。


「きれ~い!お星さまみたい!」


 ユグは花畑を見ながら言った。


《ハハッ!嬉しいことを言ってくれんじゃねぇか!ありがとよ!》


《見てくれる人がいるって、嬉しいものね!》


 シラソーたちはそう言うと、ゆらゆらと揺れ始めた。

 その光景は、ライブ会場でペンライトを振っているファンのようでもあった。


(まぁ、性格はアイドルの方に近いかもね……)


 そんな風に考えて、私は思わず苦笑する。

 それから少しの間、私たちはシラソーたちと会話を楽しんだ後、研究所へ帰るのであった──。

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