第2話 魔法植物の調査と診察
翌日。朝食を済ませた後、ナチュラさんが依頼書を見せてくれることになった。
「はい、これが昨日届いた依頼書よ」
「おお~!」
「すごぉい!」
テーブルに置かれた数枚の用紙を2人で見る。
(あっ……!これ……)
その中には、私のよく知る魔法植物が記されていた。
「これ……『エピタルの木』ですよね?」
「あら、本当だわ。依頼内容は……『病気のおそれがあるので調査してほしい』とあるわ」
ナチュラさんは依頼内容を確認しながら答えた。
『エピタルの木』は、リンゴの木によく似た魔法植物だ。私は以前、緑のままのエピタルの実の成熟に、力を貸したことがあった。
(リンゴの木は病気に
私は心の中で呟く。
「どうする?この依頼を受ける?」
「……はい。受けたいと思います」
「そう。なら、準備をしておきましょう」
「ありがとうございます!」
こうして、私は『エピタルの木』の調査に向かうことにした。
◆◆◆
準備を終えた後、私はユグと一緒に研究所を出た。今回はナチュラさんも一緒だ。
「前回は、フタバちゃんとユグちゃんだけで行ったのよね。どんな木だったの?」
「えっと……。そうですね……1本だけ大きな木が生えていて、実がたくさんなってました」
「すごく、おっきいんだよ!」
私とユグの説明に、ナチュラさんは納得したように微笑む。
「なるほど……。だから、あんなに実が大きかったのね」
「はい!」
それからしばらく歩くと、目的地が見えてきた。
そこには、エピタルの木がたくさん生えている。以前と違っているのは、まだ実がなっていないところだろうか。ナチュラさんいわく、魔力を溜める時期らしい。
「ついたー!」
「結構広いのね……」
ナチュラさんが周りを見ながら言った。確かに、ここだけでも相当な広さがある。
私も周囲を見渡し、異常がないか確認する。
(この辺りの木は、特に変わった様子はないみたいだ……。やっぱり、あの木かな……)
視線を向けると、少し離れたところに一際大きい木があった。
「ナチュラさん!異常があるのは、多分あの木だと……」
「えぇ、そうでしょうね」
ナチュラさんは肯定すると、私たちへ声をかけた。
「それじゃあ、行きましょうか」
「はい」
私はユグの手を握って歩き出した。
◆◆◆
木に近づくと、私はすぐに異変に気付いた。
枝についた葉に、
(これ……『
『斑点落葉病』とは、葉の表面に茶色の
私は不安になりながらも、意を決して木に話しかけた。
「……こんにちは!エピタル!」
──《……誰だよ》
私の呼びかけに答えたのは、どこか不機嫌そうな声だった。
「私、私だよ!フタバ!……前に会いに来たこと、覚えてる……?」
《……!?お前……フタバなのか……?》
驚いたような声が返ってきた。よかった……。覚えていてくれたようだ。
「うん!久しぶりだね!」
《あぁ……。そうだな……》
私が話していると、ユグも交ざってきた。
「お兄ちゃん、げんきないの……?」
《ユグまで来たのか……。まぁな……ちょっとだるいだけだ》
エピタルは枝葉を揺らして答えるが、その動きには
(確か、『斑点落葉病』は病原菌が原因だから……。もしかして、そのせいで調子が悪いんじゃ……)
「ねぇ、エピタル……。私でよければ
《……!いいのか……?》
「うん!もちろん!」
私は笑顔で答えた。
《……助かる。ありがとう》
エピタルの声は先程より、明るいものになっていた。
私は早速、葉の状態を詳しく診ることにした。様々な角度から調べたところ、やはり『斑点落葉病』であると判明した。
「これは『斑点落葉病』っていう、病気の一種だと思います」
「……治す方法はあるの?」
ナチュラさんの問いかけに、私はリュックから薬剤をいくつか取り出す。
「はい。薬があるので、これを与えれば大丈夫です!」
「……良かったわ」
ナチュラさんはホッとした様子で笑みを浮かべた。
私は木の根元に薬剤を
《……うげぇ。マズい……》
エピタルは嫌そうな声をあげた。木にとっては風邪薬みたいなものなのかな……?
「ごめんね……すぐ良くなると思うから」
私は苦笑して謝る。するとエピタルは《……わかってる》と小さく呟いた。
それからしばらく経つと、エピタルの葉にできていた斑点は徐々に消えていった。
「これでもう安心だよ!」
「良かったわね」
「お兄ちゃん、げんきになった?」
私たちは口々に言う。すると、エピタルは枝を振った。
《あぁ、だいぶ良くなったよ。ありがとな》
エピタルの声は少し嬉しそうだ。
(喜んでくれて嬉しいな)
私は嬉しくなって、笑みを浮かべる。
「次は、実がなる頃に来ましょうか」
「うん!また食べたい!」
ナチュラさんとユグは楽しげに話す。
(ユグは、相変わらず食べるのが好きだなぁ……。でも、あのパイは甘酸っぱくておいしかったな……)
私は、前に食べたエピタルのパイの味を思い出しつつ、その様子を見ていた。すると、ボソッと呟くような声が耳に入った。
《……俺も、待ってる……》
「エピタル……?」
《……っ!な、なんでもねぇよ!》
エピタルは慌てて否定した。でも、今の言葉は確かに聞こえた。
(ふふっ……。楽しみにしてるんだね)
エピタルの言葉に、私は嬉しさを感じながら、小さく笑うのだった。
◆◆◆
研究所に戻り、ナチュラさんから夕飯までもう少し時間がかかることを伝えられた後、ユグは中庭でルーチェと遊び始めた。
『ルーチェ』はツル植物で、魔法植物の一種でもある。ユグはルーチェに「高い高い」をしてもらうのが楽しいらしい。
そして、私は荷物の整理をすることにした。
私は調査に向かう時にリュックを背負って行くのだが、中身がいっぱいになると、こうやって一度全部出して、必要なものを選別するのだ。
(えっと……これは栄養剤か。こっちは何だっけ?)
一つ一つ手に取りながら、私は片付けを続ける。
私が元の世界から持ってきていた栄養剤などには、この世界に無い成分が含まれていたらしく、効力が良いようだ。消耗品のため無くなってしまったが、ナチュラさんの研究のおかげで、この世界でも同じ成分のものが完成したのだ。だが……
(うーん……。ラベルか何かを貼った方がいいかも……)
いろいろ作ってくれたのは嬉しいが、似たような色のものもあって、どれがどれだか分からなくなってしまいそうだ。
「フタバちゃーん!夕飯ができたわよ~!」
「はーい!」
ナチュラさんに声をかけられ、私は返事をした。
(よし!これくらいで終わりにしよう)
私は立ち上がり、ナチュラさんのもとへと急いだのだった───。
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