第9話 女子力!?高めな『モクイの花』
「──というわけなんですよ!」
私はナチュラさんに、ドトリの木のことを説明した。
「あら、そうだったのね……。フタバちゃんは優しいわね」
「あのお兄ちゃんに、おともだち、できるといいね!」
ナチュラさんは微笑み、ユグも笑顔で言う。
「そうだね!」
私は同意しつつ、こう続けた。
「ところでナチュラさん、何かつけてますか?良い香りが……」
先ほどから、香水のような甘い匂いが漂っていて、気になっていたのだ。
すると、ナチュラさんは「あぁ、これかしら」と言って小瓶をポケットから取り出す。中に入っているのは液体だった。
「これは『モクイの
「いえ……全然そんなことは……」
(むしろ、すごくいい匂いだし……)
私は内心で思った。
「お花みたいな、いいにおいだね~!」
ユグも、クンクンと鼻を鳴らす。
すると、ナチュラさんはクスリと笑った。
「もとになっている『モクイの花』も、良い香りなのよ。……そうだわ!よかったら一緒に行ってみない?」
「えっ、いいんですか!?」
私は驚いて聞き返す。すると、彼女はニッコリと笑みを浮かべた。
「もちろん!調査も兼ねて、ね?」
「わーい!いくっ!いきたいっ!!」
ユグは嬉しそうにはしゃぐ。
「はい!ぜひお願いします!」
私も元気よく返事をしたのだった。
◆◆◆
その日の夜、私はモクイの花について図鑑で調べてみることにした。
「えーっと……モクイの花は……。あった!」
私はページをめくって探していく。すると、すぐに見つかった。
(あっ、これ……。キンモクセイみたい……)
写真を見ると、橙色の小さな可愛らしい花を咲かせていることがわかった。
説明文には、ナチュラさんが言っていた通り、虫よけに効果があると書かれていた。
(それにしても、キンモクセイかぁ……。なんか懐かしいな……)
私は昔を思い出しながら、目を細める。
(確か、秋になると近所の公園にも咲いてたっけ……。この香りを嗅ぐと、『秋が来た』って感じになるんだよな……)
そんなことを考えつつ、私は本を閉じて眠りについた。
(明日が楽しみだな……)
◆◆◆
翌日、私たち3人はアルケーの森を訪れた。この森の日当たりの良い場所に、モクイの花が咲いているそうだ。
「お花、どこかなぁ?」
ユグはキョロキョロと辺りを見回している。
「フフッ……香りを
「ほんと!?じゃあわたし、やってみる!」
ユグはそう言うと、花の香りを嗅ぎ始めた。
「ん~……。こっちかな?」
ユグはトコトコと歩き始める。その後ろ姿は楽しそうで、見ているだけで微笑ましい気持ちになった。
「フタバちゃんは、ユグちゃんが迷子にならないように見ててね?」
「はい!」
私はそう返事をして、ユグの後を追いかけた。
それからしばらくして、私たちは目的の木を見つけた。
「うわぁ……!きれいなお花!」
ユグは木を見上げて歓声を上げた。
そこには、オレンジ色の小さく
「ねぇ、お姉ちゃん!さわってもいい?」
「うん。優しく触ってあげるなら大丈夫だよ」
「わかった!」
ユグは木に近づくと、小さな手でそっと触れた。すると、木の葉っぱが揺れた。
──《……ふふっ、くすぐったいわ!》
「あっ……」
ユグは驚いた様子で声を漏らす。
先ほどの声は、私にも聞こえた。おそらくモクイの声だろう。
「ごめんなさい……」
ユグがしょんぼりとして謝ると、また葉が動いた。
《あらあら、違うのよ!ちょっとくすぐったかっただけだから!》
「そうなの?」
ユグは顔を上げて尋ねる。
《ええ。驚かせちゃったならごめんね》
「ううん、だいじょうぶ!」
ユグは笑顔に戻った。そこで、私も話しかけてみることにする。
「あの、こんにちは!私の名前は、フタバって言います!」
《あら、こんにちは。フタバちゃんっていうのね?》
「はい!良い香りですね……!」
私の言葉に、モクイは嬉しそうに枝葉を揺らした。辺りに香りが広がる。
《ありがとう。アタシ自身も好きだから、嬉しいわ!》
「えへへ……。わたしもすき!」
ユグもニコニコと笑って言った。
それからしばらく、私たちは雑談を楽しんだ。ナチュラさんだけは『
「それでそれで?他にはどんな効果があるの?」
《ふふっ……虫よけだけじゃなくて、他にもいろいろあるのよ?》
ナチュラさんは研究者らしく、興味津々といった様子だ。私はそんな彼女を見て、苦笑いしながら通訳する。
「へぇ……!すごい!教えて?」
《ええ、いいわよ!》
ユグは瞳を輝かせ、モクイの話に耳を傾けた。
◆◆◆
いろいろな話をしているうちに、話題はモクイの相談事へと移った。
《……実はね、最近困っていることがあるのよ》
「どうしましたか?私たちで良ければ、力になりますよ!」
私は笑顔で答える。
《本当?……実はアタシ、最近乾燥のせいか調子が悪くてね……》
モクイは困ったように呟く。
確かに、ここ最近は雨が降っていなかった。
(乾燥する時期には、病気にも
私はそう考えて、提案してみた。
「あの……良かったら、私がなんとかしましょうか?」
《えっ?そんなことができるの?》
「はい。病気の予防薬があるんですよ!」
私は笑顔で答えて、リュックから小瓶を取り出す。
「お姉ちゃんは、植物のお医者さんなんだよ!」
「ここは、フタバちゃんに任せてみたら?」
ユグとナチュラさんは、モクイに提案する。
モクイは、少しの間考えていたが、やがて決心がついたようだ。
《……お願いしてみても良いかしら?》
「任せて下さい!」
私は笑顔で答えた。
それから私は、モクイの症状を確認していった。
(……うん、やっぱり……。『うどんこ病』の初期症状が出てる……)
『うどんこ病』とは、その名の通り白い粉状のカビが発生する病気だ。主に、葉や茎などにできることが多い。放置しておくと、どんどん広がってしまうのだ。
私は、取り出した薬剤を丁寧に散布していった。そして、最後にモクイの根元に栄養剤を
「これでよし!あとは、雨が降ることを祈るしかないですけど……。きっと、良くなると思いますよ」
そう言って笑顔を向けると、モクイは嬉しそうに枝葉を揺らした。
《ありがとう!フタバちゃん!あなたは本当に優しい子ね!》
「いえ、とんでもないですよ!」
私は
「良かったわね、フタバちゃん!」
ナチュラさんは笑顔で言う。
「うん!お兄ちゃんも、これでだいじょうぶだね!」
(えっ!?お兄ちゃん……!?)
私はユグの口から飛び出してきた言葉を聞いて、思わず固まる。
《ふふっ……ありがとう、ユグちゃん。でも、『お兄ちゃん』じゃなくて『お姉ちゃん』って呼んでもらえると、嬉しいわ!》
モクイは良い香りを漂わせながら言った。
(待って……?ユグが『お兄ちゃん』って呼んだってことは……そういうこと?そもそも、植物に性別があるかどうかもわからないし……)
「わかったー!おねえちゃん!」
「ふふっ……よろしくね」
混乱する私をよそに、ユグとモクイは楽しげに話していた。
「……フタバちゃん?大丈夫?」
「あ、はい!大丈夫です!」
ナチュラさんの声で我に返り、私は返事をする。
(……まぁ、いいか。深く考えてもわからないし……)
私は考えるのをやめて、苦笑いするのだった───。
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