3-17. 猫女猫女猫女!

 同時刻、王都の大聖堂の塔にあるマリアンの執務室に動きがあった――――。


 コンコンコン!


 ドアがせわしなくノックされ、


「マリアン様、大変です!」


 しゃがれた男性の声がする。


 デスクで報告書をチェックしていたマリアンは、


「どうぞ」


 と言って、不機嫌に顔を上げた。


「ミネルバが海王星に居ます! どうやらうちの星のサーバーへ行くようです!」


「えっ!? あの猫女、生きてたの? それにサーバーって……。まさかバレたの?」


「た、多分そうではないかと……」


 初老の男は言いにくそうに答えた。


「くっ……!」


 マリアンはそう言って歯を食いしばる。


「ど、どうしましょう……?」


「猫女め――――!!」


 マリアンは真っ赤になって吠え、デスクを激しく叩いた。


「ひぃっ……」


 男は後ずさる。


「猫女を止める方法は無いの?」


 マリアンは男をにらみつけて聞いた。


「か、彼女はもう海王星に行ってしまったので、我々ではもう止められません」


「あぁ――――! マズい! 不正の証拠が取られちゃうわ! 何とかならないの?」


 マリアンは頭をかきむしりながら言う。サーバーへの不正は重罪だ。証拠を押さえられたらマリアンは捕らえられ、死刑は免れない。まさに命のかかった大ピンチに陥ったのだ。


「げ、現地に行かないとハードウェアはいじれないです……」


 男は冷や汗を垂らしながら答える。


 ガンガンガン!


 マリアンはデスクをこぶしで殴りつけ、そして落ち着きなく部屋の中をうろうろしながら思案し、


「猫女猫女猫女猫女猫女! キ――――ッ!!」


 と、ヒステリーを上げ、花瓶をつかんで振り上げると床にたたきつけた。


 パリーン! という高い音が部屋に響く……。


 そして、ハァハァハァと、マリアンの荒い息が静かに流れた。


 男は目をつぶり、身体を固くして嵐の過ぎ去るのを待った。


「ねぇ……、海王星にある船のリストを見せて頂戴」


「え? ふ、船……ですか? 分かりました……」


 男はそう言うとサイドデスク上に画面を展開した。そして、画面をクリクリと操作していく……。


 しばらくして、画面上には船の名前と種類と位置のリストが表示された。


「こ、これでよろしいですか?」


「ちょっと見せて!」


 マリアンは画面の前まで行って必死にリストをにらんだ。そして、そのうちの一つを指さして、


「今すぐこいつを乗っ取って!」


 と、命じた。


「えっ!? この貨物船ですか? 船を乗っ取るのは重罪ですよ!?」


「できるの!? できないの!?」


 マリアンは目を血走らせながら喚いた。


「わ、分かりました。やってみます……」


 男はマリアンに気おされ、画面を操作する。ハッキングツールを次々と立ち上げると貨物船の制御システムに攻撃をかけていった。


 画面には膨大の量の文字が激しく流れていく。二人は何も言わずその画面を静かに眺めた。


 しばらくして、ピポッ! と、画面から音がして「SUCCESS」の文字が赤く表示される。


「成功しました。もう自由に動かせますが……、どう……するんですか?」


「これをうちのジグラートにぶつけて」


「えっ!? 何言ってるんですか! そんなことしたらこの星滅亡ですよ!?」


「そうよ、ミネルバごとこの星を海王星深く沈めてやるのよ!」


 マリアンは悪魔のような笑みを浮かべ、そう言い切った。


「く、狂ってる……」


 おののくと男は急いで逃げだす。


 ダッシュして男がドアを開けた時だった。


 パーン!


 マリアンは表情一つ変えることなく、指先からまばゆい光を放ち、男の背中を撃ち抜く。


「ぐはぁ……」


 男は胸に風穴があき、おびただしい量の血を振りまきながら床に倒れた。


 そして、ピクピクっと痙攣けいれんしながら絶命する。


「今さら何を逃げようとしてんのよ」


 マリアンは冷たい表情で、男の亡骸なきがらを見下ろし、そう言った。


 マリアンは画面を操作し、貨物船の目的地をジグラートに設定して、全速前進の指令を打ち込む。


「猫女、今度こそあの世に送ってやるわ」


 瞳孔の開ききった目でマリアンはニヤッと笑った。



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